体系 |
外国の特許法・特許制度 |
用語 |
秘匿特権(Without prejudice)の趣旨 |
意味 |
秘匿特権(Without
prejudice)とは、和解交渉において、一定の条件の下で当該交渉で交わされた会話或いは用いられた言葉が裁判の証拠として用いられることを言います。
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内容 |
①秘匿特権(Without prejudice)を認める趣旨
(a)英米法(コモンロー)を採用する国では、予め“Without
prejudice”である旨を告げて、紛争の和解交渉で交わされた言葉については、後日、裁判の証拠に用いることができないという判例上の利益があります。
具体的には、和解交渉において、仮定的にある事実を認めて交渉を進め、交渉不成立の場合には、それを争う権利を保留することができるのです。
(b)こうした特権を認める趣旨は、率直で自由な和解交渉を可能とし、多くの費用と時間を要する裁判に至る前に、効率的に紛争を解決するためです。
こうした秘匿特権がないと、交渉者は、交渉中に話したことの言葉尻を捉えて後の裁判の証拠にされることを恐れて、なかなか本音で話をすることができなくなります。
また相手の言い分に一定の理があると内心では思っていても、それを認めることで権利関係に不利益を与える心配があるとなれば、うかつにそれを認めることはできません。
勢い、相手の主張の一切を否定し、自分の言い分を一方的に主張することになります。それでは、和解交渉がまとまる可能性は非常に小さくなります。
こうした不都合を回避するために、秘匿特権が認められています。
②秘匿特権(Without
prejudice)を認めることの利益
(a)秘匿特権により当事者間の和解交渉を促すことは、特許などの知財の分野において特に利益のあることです。
(b)第一に、特許権は無体財産権ですから、一つの特許権が多数の事業者により侵害されているという事態が起こりえます。
そうした多数の事業者に対して、特許権者が一々裁判を起こしていれば、訴訟コストは莫大なものとなるため、和解交渉での解決に重点を置かざるをえません。
そしてそれぞれの事業者との和解交渉をずるずると行っていると、市場での独占的な立場を回復するという最終目的を達成するために非常に長い時間がかかってしまいます。
他方、特許権には存続期間(一般には特許出願の日から20年)があり、前記最終目的を達成したときには存続期間の終了間際であったということも起こりえます。
そうならないために、迅速に和解交渉を進める必要があるのです。
(c)第二に、特許侵害の和解交渉では、特許の有効性が問題となる場合が高いという事情があります。
特許の要件として、特許出願の時(いわゆる優先権が主張されている場合には優先日)に存在する先行技術に対して新規性や進歩性を具備していることが必要となります。
しかしながら、進歩性等の判断は世界中に存在する先行技術を対象とするため、ある発明が確実に新規性・進歩性を有すると断言することは非常に難しいことです。
特許侵害訴訟の解決を目指す時には、特許権者と相手方との間で特許ライセンスを締結することが和解交渉の落とし所として考えられます。その際に、秘匿特権を認めることにより、特許が無効になる可能性を当事者間で議論しながら、特許無効のリスクを踏まえてロイヤリティを決めることができるのは、紛争解決を目指す上でのメリットになります。
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留意点 |
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