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①除斥の意義
特許法は、特許出願又は延長登録出願の拒絶査定不服審判、特許無効審判、及び訂正審判の審理の公正を確保するために、除斥の制度を設けています。
しかしながら、この制度は、除斥原因がある審判官は当然に職務の執行から除斥されるものであり、申し立ての判断があって除斥となる訳ではないため、恣意的な理由により、除斥に該当するとすると、時間と人件費とを投じて行われた審理が審理主体の問題で無に帰することになり、行政経済の要請に反するおそれがあります。
そこで、特許法第139条各号において、除斥原因を明文で細かく規定しています。
立法者がこうした規定を作るのは、法律家が拡張解釈や類推解釈をしなくても良いようにするためであり、従って、こうした規定を拡張・類推する解釈を妄りにするべきではありません。
ここでは、特許法第139条6号を特許出願の拒絶査定不服審判の確定審決と再審との間に適用しようとした当事者の主張が退けられた事例を紹介します。
②除斥の事例の内容
[事件の表示]平成14年(行ケ)第488号
[事件の種類]審決取消請求事件(棄却)
[事件の経緯]
(a)原告は、昭和63年11月29日、「電力変換回路と点火回路」と称する発明を特許出願をしたが、平成9年8月6日、拒絶の査定を受けたので、同年9月1日、これに対する不服の審判の請求をした。特許庁は、上記請求を平成9年審判第14523号事件として審理した上、平成12年4月25日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「原審決」という。)をし、その謄本は、同年5月22日、原告に送達され、同年6月21日、原審決が確定した。
(b)原告は、同年8月7日、原審決の取消しを求める再審の請求をしたところ、特許庁は、上記請求を再審2000-95001号事件(以下「本件再審事件」という。)として審理した上、平成14年8月7日、「本件再審の請求を却下する。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月24日、原告に送達された。
本件審決に関与した審判官はA審判官、B審判官、C審判官、D審判官及びE審判官の5名である。
(c)本件再審事件の係属中、原告は、3度にわたり、本件再審事件の審理を担当する審判官に対する除斥の申立てをし、さらに、当該各除斥申立事件を担当する審判官に対する忌避の申立てをしたが、いずれも認められなかった。
(d)そこで原告は、特許庁が本件再審事件についてした審決を取り消すことを求めて審決取消訴訟を提起した。
[裁判所の判断]
原告は、除斥、忌避、回避の制度は、憲法32条の規定に基づいて、「公正な裁判を保障する公正な裁判所」を実現するための手段として定められたものであるところ、本件再審事件において、両審判官が審理判断することは、自らが関与した原審決について「判断の遺脱」があるか否かを自分で審理判断することであって、極めて不公正であるから、両審判官に除斥原因があることは、憲法32条の規定自体から明らかであり、仮に、本件について、特許法に該当する規定がないとすれば、それは、特許法が憲法32条に違反しているか、あるいは、条理法、慣習法又は判例法といった不文の法源に基づく除斥原因があり、本件はそれに該当する旨主張する。
原告の上記主張は、自らの判断遺脱の有無を自らが審理判断することは、裁判ないし審判の制度として不公正であるとの前提があるところ、そのような前提は、審級関係のある上訴制度については妥当するにしても(→上訴とは)、裁判に対する不服申立ての制度としては、原裁判をした裁判所に対する異議の申立て(例えば、民事保全法26条に規定する保全異議の申立て)もあり、原告主張の前提は、裁判制度一般について常に妥当するものであるとは到底考えられない。民訴法においては、再審により不服を申し立てられた確定判決は、再審事件との関係で「前審の裁判」(民訴法23条6号)に当たらないとされている(最高裁昭和39年9月4日第二小法廷判決・裁判集民事75号175頁参照)のであるから、これと同様に、特許法における拒絶査定不服審判の確定審決とそれに対する再審についても、後者を担当する審判官について、前者に関与していたことを除斥事由としないこととしても、立法政策上、何ら問題はないというべきである。
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