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 パテントに関する専門用語
  

 No:  1420   

抗告CS2/特許出願/進歩性

 
体系 行政行為
用語

抗告のケーススタディ2

意味  抗告とは、民事訴訟法上において、判決以外の裁判である決定及び命令に対する上訴を解説します。


内容 @抗告の意義

 特許侵害訴訟における判決以外の決定・命令として、いわゆる保全処分(具体的には、被疑侵害品の製造・販売を停止する仮所分の決定及び仮処分の命令)並びに保全処分を取り消す決定があります。
保全処分とは

 これらの決定や命令は特許権の存在を前提として出されるのですが、特許権は、無効審判により遡及的に消滅する不安定な権利です。

 すなわち、特許出願の要件(新規性や進歩性、発明の明確性・サポート要件など)を具備していなかったと判断された場合には、特許権が発生した時点に遡って、また、後発的な無効理由に該当するときには、当該理由が生じた時点に遡って、権利がなくなるのです。

 こうした場合には、債務者の側は、仮処分の決定をしたときとは事情が変更したとして、仮処分の決定や命令の取消の申し立てをすることができます。

 これに対して、債権者の側は、無効審決に対して審決取消訴訟を提訴するとともに、仮処分の取消しの決定に対して抗告をすることができます。

 こうした事例を紹介します。


A抗告の事例の内容

[事件の表示]平成19年(ラ)第10008号

[事件の種類]保全取消決定に対する抗告事件(認容)

[発明の名称]ゼリー状体液漏出防止材及びそれを使用した体液漏出防止方法

[事件の経緯]

(a)抗告人は、“ゼリー状体液漏出防止材及びそれを使用した体液漏出防止方法”と称する発明の特許出願に対して付与された特許権(第3586207号)を有する。

(b)抗告人は、相手方の商品(債務者製品)がその請求項1に係る発明についての特許を侵害するとして、その製造・販売等の差止めを求める仮処分を申し立てたところ、大阪地裁は、平成18年7月25日、上記商品の製造・販売等を禁止する旨の仮処分決定をした(平成18年(ヨ)第20021号)。

(c)これに対し相手方は、保全異議の申立て(平成18年(モ)第59009号)をしたが、同裁判所は、平成19年1月5日、上記仮処分決定を認可する旨の決定をした。

(d)ところで相手方は、上記特許権の請求項1ないし4につき特許庁に対し特許無効審判請求(無効2006−80125号事件)をしていたところ、同庁が平成19年2月7日、これを無効とする旨の審決をしたことから、原審の大阪地裁に対し、上記無効審決は民事保全法38条にいう事情変更に当たり、予備的に同条39条にいう特別事情に当たるとして、上記仮処分決定の取消し(平成19年(モ)第59003号)を申し立てた。

(e)上記申立てを審理した大阪地裁は、平成19年7月26日、上記のとおり特許庁において無効審決がされたことにより、本件特許が最終的に無効と判断される蓋然性が増加したから、保全の必要性について事情変更が生じたとして、相手方に500万円の担保を立てさせた上、上記仮処分決定を取り消す旨の決定をした。そこでこれに不服の抗告人が、本件保全抗告を申し立てた。

(f)なお、平成19年2月7日になされた上記無効審決に対しては、これに不服の抗告人が当庁(知的財産高等裁判所)に審決取消訴訟を提起し(平成19年(行ケ)10102号)、これを当庁が平成19年6月5日付けで特許法181条2項により上記審決を取り消す決定をしたことから、特許庁において特許無効審判請求について再び審理されたが、同庁は平成20年1月25日、以前とほぼ同内容の無効審決をした。

(g)そこで、これに不服の抗告人は、再び当庁に審決取消訴訟(平成20年(行ケ)10066号)を提起し、本件保全抗告事件を審理する裁判体と同一裁判体により、事実上並行して審理が進められている。

(h)本件抗告事件における争点は、上記事情変更を認めることができるか、等である。

[無効理由の内容]

(a)改正前特許法36条6項2号の要件(明確性要件)を満たさない、(b)改正前特許法36条6項1号の要件(サポート要件)を満たさない、B改正前特許法36条4項の要件(実施可能要件)を満たさない、

[抗告人の主張]

 無効審決には、以下のとおりの判断の誤りがあり、原審は審決取消訴訟の判断がなされるのを待って本件保全処分を取消すか否かを判断すればよかったものである。

[相手方の主張]

 保全取消しについての民事保全法38条、39条に関しては、いずれも旧法の関係ではあるが、以下の最高裁判例が存する。

・民訴法759条(旧法)の申立ての当否を審理するについては、仮処分により保全せらるべき実体上の権利の存否及び仮処分の理由の有無について判断する必要はなく、専ら仮処分取消し特別事情の有無を判断すべきであり、かつ、これをもって足りる(最高裁昭和23年11月9日第三小法廷判決・民集2巻12号405頁)。

抗告人は、無効審決の判断にはその理由において誤りがあるとして、本抗告審においてもその内容を詳述しているのであるが、上記判決によれば、保全裁判所は、仮処分により保全せらるべき実体上の権利の存否については判断する必要はなく、専ら事情変更の有無あるいは特別事情の有無を判断すれば足りるのであって、抗告人の主張はそもそも保全取消しにおいては判断の対象とはならないものである。


[裁判所の判断]

 事情変更の有無について

(1) 特許権侵害禁止仮処分決定の後、同特許を無効とする審決があっても、その取消訴訟において同審決が取消しを免れない場合には、仮処分決定を取り消すべき事情変更があるとはいえないと解するのを相当とする。

 これを本件についてみると、本件特許に係る明細書(本件明細書、乙40)の記載によれば、本件発明1に係る「ゼリー」は粘液を意味するものと解されるところ、「アルコール系を主成分とするゼリー」にいう「アルコール系」の意味についても、粘液状のゼリーの主成分として構成されるものであり、また遺体の体液を吸収するための高吸水性ポリマーを分散して保持することの可能なものであることからすると、「高吸水性ポリマーに吸収されない親水性を有する液状アルコールに分類される化合物」であると解することができる。

 そうすると、本件特許出願当時の技術常識に照らせば、当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)であれば、本件発明1の「アルコール系」に該当する物質の範囲も自明であり、本件特許については特許請求の範囲の記載も明確であって、特許請求の範囲の記載が明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。さらに本件明細書の段落【0032】の記載に当業者の技術水準を参酌すると、その発明の詳細な説明も本件発明1を実施可能な程度に記載したものであって、相手方が本件特許に関して主張する無効理由は存しないと解すべきである。

 なお、上記平成20年(行ケ)第10066号審決取消請求事件について、平成20年9月29日に上記(1)と同様の理由により、特許庁が平成20年1月25日付けでなした前記無効審決を取り消す旨の判決をしたことは、当裁判所に顕著である。



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