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@特許の活用策・保全の必要性の意義
特許法は、特許出願人が新たな発明(新規性・進歩性を有する発明)を国家に開示し、これを社会に公開させることの代償として、業として特許発明を実施することを専有することを内容とする特許権である特許権を付与します。
この特許発明の実施は、特許発明の構成要件の全部の実施を言うことが原則です。しかしながら、その構成要件の要件の一部の実施であり、特許権の直接的な侵害でなくても、例えば特許製品の製造に用いられる専用部品の供給などは、直接侵害を惹起する蓋然性が高いものです。こうした事情を考慮して、特許法は、こうした行為を規制するために、特許侵害の予備的な行為を特許権のの侵害とみなすこととしています(→間接侵害とは)。
特許権侵害訴訟において、間接侵害が存在するときには、これを根拠として、保全の処分(間接侵害の停止を求める仮処分)を求めることができます。
A特許の活用策・保全の必要性の事例の内容
[事件の表示]昭和63年(モ)第54761号
[事件の種類]仮処分異議申立事件(認容)
[考案の名称]ジヨイント式コンクリート型枠用セパレータ
[事件の経緯]
(a)申請人甲は、“ジヨイント式コンクリート型枠用セパレータ”と称する考案に関して実用新案権(登録番号)を有しており、この実用新案権に基づいて、被申請人は係争物を製造販売してはならない旨の仮処分の裁判を求めた。
仮処分が認められなかったため、控訴を行った。
[裁判所の判断]
債務者乙はイ号物件を製造してこれを債務者丙に販売し、債務者丙はイ号物件を債権者のカタログと酷似したカタログを使用して西日本地区、特に九州地区で大量に販売しているが、これまでも債務者らは債権者の実用新案権や意匠権を侵害し、債権者に多大の損害を与えてきた経緯があり、本案訴訟の決着を待つていては、債務者らが侵害行為を継続して債権者に回復し難い損害を与えることは必至であるから、保全の必要性がある。
[コメント]
間接侵害が行なわれているときに、特に問題が大きいのは、特許発明の実施に用いる専用部品が個人ユーザーに対して提供されている場合です。
例えば特許製品の部品全部をセット物ととして販売され、ユーザーが簡単にそれらを組み立てることができるような場合です。
特許権の効力は、“業として特許発明を実施すること”を内容としますので(特許法第68条)、そうしたセット物を個人が組み立てても、特許権の侵害とはなりません。
それだけ、特許権者の侵害はより大きく、手をこまねいていると、被害の額は収拾つかないほど拡大するおそれがあります。
換言すれば、特許発明の実施(個人による組み立て)の前の段階で手を打つことが非常に重要になってきます。
間接侵害に対する特許侵害訴訟で保全処分の申請をする場合には、そうした事情を保全の必要性において主張することが有用です。
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