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 パテントに関する専門用語
  

 No:  1437   

特許の活用・保全の必要性CS4/特許出願/進歩性

 
体系 行政行為
用語

特許の活用策・保全の必要性のケーススタディ4

意味  保全の必要性とは、本案訴訟の前に暫定的な措置(保全処分)をとることを正当化できる程度の具体的な必要性をいいます。

 被保全権利が特許権や実用新案権(特許権等と言う)である場合には、特許の活用等のために、保全処分を申し立てることが有効ですが、特許審判の請求により特許権が遡求的に消滅すると保全の必要性が否定される可能性があるため、この点に留意する必要があります。



内容 @特許の活用策・保全の必要性の意義

 保全処分を申し立てるときには、当該処分により保護される権利(被保全権利)が存在することを疎明し、さらに、保全の必要性を疎明することが必要です。

 しかしながら、特許権等は、例えば特許出願前に公知となった先行技術と同一(新規性の欠如)又はこれから当業者が容易に発明できた(進歩性の欠如)ときには、無効審判の請求審決が確定することにより、遡求的に消滅する可能性があります。

 特許出願前に公知となった先行技術は膨大に存在するために、予め無効理由を探知することは容易ではありません。

 そして特許権が遡求的に消滅すると被保全権利が消滅することになるため、特許侵害訴訟の被告側は、本案訴訟に先立って、侵害行為の差止を求める仮処分の申立てが行われた場合には、前記無効理由を含めた保全の必要性に関して十分に検討する必要があります。


A特許の活用策・保全の必要性の事例の内容

[事件の表示]昭和56年(ヨ)第52号

[事件の種類]実用新案権侵害禁止仮処分申請事件(却下)

[考案の名称]合成樹脂性水仕事用靴

[保全の必要性の論点]実用新案登録無効の可能性

[事件の経緯]

(a)申請人は、“合成樹脂製水仕事用靴”と称する考案に関して実用新案権(登録番号一三六二六六八号)を有しており、この実用新案権に基づいて、被申請人は係争物を製造販売してはならない旨の仮処分の裁判を求めた。

(b)実用新案権の請求の範囲は次の通りである。

「軟質の合成樹脂材料で甲部と薄い底部とを一体的に形成して平面細長楕円形の靴本体を形成し、この靴本体の上部に長さ方向一側に偏して全長の1/2長より大きくした平面楕円形状の足挿入部を形成し、この足挿入部の開口部の全周縁を外方に朝顔状に突出させ、これとは別に形成した下面に滑り止め用凹凸部を有せしめた靴底部の上面に前記甲部と一体的に形成した肉薄底部の下面を溶融若しく接着剤を用いて全面的に接着した合成樹脂製水仕事用靴。」

[裁判所の判断]

(a)疏明によれば、被申請人はこれに対抗し申請人の前記実用新案権は無効であるとの見解のもとに、昭和五六年三月二六日付をもって特許に対し無効審判請求をなし、右請求は現に昭和五六年審判第五六五六号事件として係属中であることが一応認められる。

(b)そこで、当裁判所は右のような実情に鑑み、本件については便宜先に仮処分の必要性の存否について検討する。

(c)まず、本件実用新案登録請求の範囲を分説すると、このクレームはA「軟質の合成樹脂材料で……靴本件を形成し、」B「この靴本件の上部に……朝顔状に突出させ、」C「これとは別に形成した……全面的に接着した」D「合成樹脂製水仕事用靴」以上四つの構成要件からなると解するのが相当である。

右要件のうちA、B、Dの各要件を充足する合成樹脂製の水仕事用靴は昭和四三年七月四日公告にかかる実公昭和三−六一三〇の実用新案公報(疏乙第一号証)に記載されており本件実用新案の出願前すでに公知である。(中略)

また、要件Cに関しては、右新聞の広告欄に靴底部に滑り止めシートが貼着されている水仕事用靴が図示されており、この滑り止めシートの作用効果は本件考案の要件Cにいう「靴底部」のそれと同一である。ただ、その構成自体については、底部に凹凸を有していない。(中略) 

滑り止めの機能を発揮させる構成として底部に凹凸を持たせること自体は実公昭四六―二〇三三四号の公報(疏乙第三号証)に記載されており公知であるのみならず、古くから運動靴等の底部にみられるとおり公用の技術であることが当裁判所に顕著である。

 このようにみてくると、本件考案はいわゆる全部公知といえないまでも、前示のような公知公用技術に照らすと、特許庁における前記無効審判手続において進歩性を欠くものと解され、その登録が無効とされる蓋然性が高いことが認められる(実用新案法三条二項、三七条一項一号)。

(d)本件仮処分申請はその申請の趣旨に照らし明らかなとおりいわゆる満足的仮処分すなわち仮りの地位を定める仮処分を求めるものであるから、民訴法七六〇条に則り「著シキ損害ヲ避ケ若グハ急迫ナル強暴ヲ防ク為メ又ハ其他ノ理由ニ因リ之ヲ必要トスルトキ」に限りこれを発すべきである。

 そして、右のような必要性の存否については右法条にいうような緊急の必要性のほか仮処分を発した場合、発しない場合における当事者双方の利害得失、本案訴訟の帰趨、その他諸般の事情をもあわせ考慮すべきが当然である。

 これを本件についてみるに、本件で申請人の主張する被保全権利(イ号物件の製造販売差止請求権)の基本となる本件実用新案権は、上来説示のとおり、その登録が現に特許庁に係属中の無効審判手続において無効とされる蓋然性が大きいのであって、このような事情は、たとえ本件実用新案権が現段階では有効適法なものであっても、前示のような趣旨での仮処分の必要性を否定するものと解するのが相当である。(中略)

 そうだとすれば、本件仮処分申請は爾余の判断をなすまでもなくその必要性の疏明を欠くものであり、また本件は事案に照らし仮処分理由の疏明にかえて保証を立てさせてこれを認容することも相当でない。

 よって、本件仮処分を却下し、申請費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり決定する。



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