内容 |
①“Interpretation”及び“construction”の意義
(a)“Interpretation”及び“construction”は、ある事柄を解釈するという意味で共通します。
これらの用語は、発明のクレーム(特許出願人が自ら保護を求めるために記載した書面)のようにまとまった文章に用いられるだけでなく、文章中の一つの用語に対しても用いられます。
“We held that "the construction of a patent, including terms of
art within its claim," is not for a jury but "exclusively" for "the
court" to determine. . That is so even where the construction of a
term of art has "evidentiary underpinnings.”
TEVA
PHARMACEUTICALS USA, INC., ET AL. v. SANDOZ, INC., ET AL.( No.
13-854)
(当裁判所は、クレームの解釈(construction)は、当該クレームに使用される技術に関する用語の解釈(construction)を含めて、陪審ではなく、専ら法廷の決定事項であると判示する。当該用語の解釈(construction)が極めて重要(evidentiary
underpinnings)である場合も同様である)
(b)しかしながら、これらの用語の国語的な意味には違いがあります。
“interprete”は、“to explain the meaning of sb”(何かの意味を説明すること)であり、
他方、“construction”は、“to understand the meaning of a word, a
sentence, or an action in a particular
way”(言葉・文章・行動の意味を特定の態様で理解すること)です。
二つの言葉はどちらも“解釈”と訳出できますが、どちらかといえば、
・“interprete”は、普通に意味を説明すること(解説)であり、
・“construe”は、あるフィルターを通して物事の意味を掘り下げ、明らかにすること(解明)
であります。
(c)“interprete”という用語には、“翻訳”という意味もあります。
例えば“patent”を“特許”と翻訳する行為は、ある英語の単語を類似の意義を有する日本語の単語に置き換えて解説しているだけです。
特許出願の審査官や特許訴訟の陪審がクレームを理解するときにも、同様の作業があります。
例えばクレーム中に“分子量”という表現があったとします。分子量には複数の意味(ピーク平均分子量・数平均分子量・重量平均分子量)がありますが、通常の場合であれば、特許出願人が明細書に記載した用語の定義を見て、或いは実施例及び図面を参酌すれば、その意味を理解できます。
こうした作業を “claim interpretation”(クレームの解釈)と言います。
(d)“construe”は、もともとは用語・文章・行為の意味を理解することに主眼があります。
用語の意味を解説する行為(interprete)においても、前提条件として用語の意味を考えている筈ですが、“interprete”は、前述の“patent”の翻訳の如く、一瞬で意味内容を理解出来るような場合にも当てはまります。
また“construe”は、特定の態様(in particular
way)で考えるというニュアンスがあります。法律用語で言えば、目的論的な解釈や法律効果を加味した解釈(条理解釈)が該当します。
例えば“claim
construction”の場合には、侵害訴訟の係争物が特許クレームの文言侵害に当てはまらなくても、“実質的に同じ態様”で
“実質的に同じ機能”を発揮し、“同じ結果”をもたらすときには権利侵害が成立すると判断します(均等論)。
他方、一見したところ、この均等論を適用すれば特許侵害が成立するようでも、特許出願人が審査で主張した内容(特に新規性や進歩性との関係で先行技術を回避するために述べた意見)が均等侵害の主張と矛盾する場合には、そうした主張は認められません(包袋禁反言の原則)。
このように、“claim
construction”には、単純な字句解釈に留まらず、法律効果を加味して、特許制度の目的に照らして技術的な観点から特許発明の価値判断を行うという意味合いがあります。
(e)もっとも以上の説明は、2つの用語のニュアンスを強調して解説したものであり、実際には“construction”と“Interpretation”と殆ど同義に使用されることも少なくなくありません。
例えばMEPE(米国特許審査基準)では、特許出願のクレーム(application claim)を解釈することを、“Claim
interpretation”と表現していますが、同時に、説明文において、その解釈のことを“construe”と表現している箇所があります。
これは、意味内容を理解する必要があることを強調する場面では“construe”という用語を使っていると理解できます。
②“Interpretation”及び“construction”の内容
(a)前述のTeva事件では、特許クレーム中の5から9キロダルトンの分子量」という用語に関して発明の明確性が争われました。
原告は、明細書に記載された分子量の数値と図形(クロマトグラフ)のピークから読み取られる数値とが近いことから、クレーム中の“分子量”とはピーク平均分子量であると主張しました。
これに対して、被告はそれら二つの数値にはズレがあり、一致しないと反論しました。
そして分子量の観測方法(クロマトグラフィー)に関連して原告の主張の当否について当事者双方が専門家証人を招いて証言させるという事態になりました。
このように特許出願人が作成したクレーム及び明細書の範囲を超えて、専門家証人の証言の如き外部証拠を用いる場面となると、“Interpretation”よりも
“construction”の方がしっくりきます。
(b)前述のTeva事件で争点となった事柄は、地方裁判所で陪審が専門家証人の証言を聴いて決定した事項を、控訴裁判所がde
nova(初めからなかったもの)として良いかどうかです。最高裁判所は、de
nova基準ではなく、地方裁判所の決定に明確な誤りがあったときに限り、当該決定を覆すことができると判示しています。
前提として、クレーム解釈(claim construction)を最終的に行うのは、裁判官であって陪審ではないという考え方があります。
判決文のその下りを引用します。
“We recognize that a district court's
construction of a patent claim, like a district court's
interpretation of a written instrument, often requires the judge
only to examine and to construe the document's words without
requiring the judge to resolve any underlying factual disputes.”
{当裁判所は、地方裁判所による特許クレームの解釈(construction of a patent
claim)は、地方裁判所による文書の解釈(interpretation of a written
instrument)と同じように、裁判官のみが吟味して書類の用語の意味を理解する(construe)するべき場面がたびたびある。この場面では、裁判官は、意味の根底にある事実上の争点を解決することを要しない。}
ここでは、文書の解釈の方に“interpretation”を、特許クレームの解釈の方には、“construction”を、使い分けしている点に着目されます。
この文章では、一般的な文書(例えば契約書)の場合には、そこに使用されている用語の意味を専門家を呼んで証言させることが必要な状況は殆ど考えられないという趣旨で、あえて言葉を使い分けしているものと理解されます。
もちろん、“a written instrument”に“construction”を用いても間違いではありません。
(c)以上のことは、一般的な契約書の解釈にもあてはまります。 →Interpretation
of the written contract
|