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①善良約因の意義
(a)Good
considerationは、例えば次のような要素により成立する約因です。
・道徳的な責任感(moral
obligation)、
・自然的な義務感(natural duty)
・{親子間などでの}愛情(affection)や情愛(love)
・寛容さ(generosity)
(b)約因(consideration)の定義に関しては、講学上次のような定義があります。
(i)英米法において有効かつ拘束力のある契約を成立させるための条件
(ii)契約上の債務の対価として供される作為(不作為や約束事を含む)
(c)意味合いとしては、(ii)の方が(i)の方が広義です。そして(ii)の立場をとる立場からは、“約因として効力を維持するに足るもの”を善良約因と説明されています。
ここで“Good”とは、“法律上有効にして、反対し若しくは攻撃しえないこと”という程度の意味です(有斐閣「英米法辞典」)。
(d)しかしながら、現在では“Consideration”の定義としては(i)の方が一般的です。
(e)“Good
consideration”は、それ自体では、強制力のある商業的な契約の基礎としては十分ではないと言われています。
例えば兄が経営する事業(製造業)の業務範囲で、弟が単独で開発して特許出願した製品の発明を、兄の会社において無償で実施させていたとします。
“兄弟なのだからロイヤリティなんて無しで特許出願にパテントが付与されても使い続けてもいいよ。”と約束することはあり得る話ですが、その約束事が拘束力のある契約として成り立っているかというと別の話です。
②善良約因の内容
(a)米国では、雇用者である会社の業務範囲で従業員がした発明に関して特許出願と同時に発明者から会社へ権利が譲渡された旨の譲渡証を出す場合、1ドルとか10ドルとか少額の対価を約因として譲渡証に書き込んでおくことが定型的です。
そうしないと、特許出願の後に発明者から、例えば“会社での立場や人間関係を悪くしたくないので譲渡証にサインをした。”というような主張をされるのを避けるためです。
発明者が会社に対して寛容さを示して譲渡に同意したのだ、と解釈されると、前述のように善良約因のみで譲渡契約を交わしたということになるからです。
(b)もっとも1ドルの約因を明記していたのにも関わらず、その点が争いになってしまった事例もあります。
MemoryLink Corp. v. Motorola Solutions. Inc., (Fed. Cir. Dec. 5,
2014)
この事件において、Memorylink and
Motorolaは、同じ特許の共有者でしたが、MemorylinkがMotorolaを侵害訴訟で訴えました。
Memorylinkは、Motorolaの譲渡証について約因が不足していると主張して攻撃したのです。譲渡証に記載された“1ドル”は法的に拘束力のある契約を成立させる上で十分なのかと疑問を呈したのです。
裁判所は、判例を19世紀まで遡って検討した上で、“社会規範(conscience)を揺るがす程度に極端に不十分でない限り”
約因が十分かどうかを問わないという立場を取っています。そして1ドルという対価は社会規範を揺るがさないと判断されました。
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