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①Action at lawの意義
(a)英米法においては、イギリスの裁判制度の歴史の中で培われた判例法が重要な意味を占めます。
そして英米法において、単に“Law”というと“コモンロー”(普通法又は一般法)を指すことが多く、これは衡平法(equity)に対する概念であると言われています。
(b)コモンローのことを、単に“Law”という理由は、平衡法より先にコモンローが成立したからです。
コモンローは、もともと中世(12世紀末)以来のイングランドで国王の裁判所が伝統や慣習に基づき裁判をしてきたことによって発達しました。その特徴は、陪審制度を用いること、金銭賠償による救済を原則とすることです。
しかしながら、金銭賠償だけでは、例えば自分の家畜を他人に取られてしまったので返して欲しいと希望する当事者を救済できません。
平衡法は、15世紀頃から、コモンローよりも公平性と柔軟性を重視して、個別的な救済を与える法体系として発展しました。その特徴は、陪審制度を用いないこと、及び差止請求を認められることです。
(c)コモンローと平衡法とでは管轄する機関も違いました。
前者は、コモンロー裁判所(court of
law)が、また後者は平衡法裁判所(court of chancery)がそれぞれ管轄します。
(d)またコモンローと平衡法とでは、使用する用語も違いました。
日本語の“判決”は、コモンローでは“judgment”、平衡法では“decreeといい、
また日本語の“訴訟”は、コモンローでは“action”、平衡法では“suit”という
という具合です。
→Decree(判決・命令)とは
(e)衡平法の判例に基づく請求及びこれに対する抗弁として、例えば特許侵害訴訟における均等論の主張及び包袋禁反言(ファイル・ラッパー・フラッパー)の抗弁があります。
均等論とは、特許発明の範囲は特許請求の範囲の記載に求めることを原則として、当該範囲に記載された発明と均等と認められる範囲を事件毎に判断し、この範囲について権利の侵害を認めるものです。
他方、包袋禁反言は、例えば特許出願の審査手続において、新規性や進歩性を否定する先行技術が審査官により示され、当該先行技術を回避するために特許出願人が請求の範囲(クレーム)を減縮する補正をした場合に、特許権成立後に、減縮により権利範囲から外れた技術的範囲を回復するために均等論の適用が主張されることに対する抗弁です。
こうした主張は、衡平の観念に反し、許されるべきではないからです。
(f)1873年から1875年の裁判所法によって、コモン・ローとエクイティの融合(merger of law and
equity)が行われました。
②Action at lawの内容
(a)現代においては、“コモンロー上の訴訟”と“衡平法上の訴訟”という区別をする意味がありません。コモンロー上の判例に準拠して請求する場合でも、衡平法上の判例に準拠して請求する場合でも、裁判管轄に違いはないからです。
(b)しかしながら、法律用語において、かつて両者が併存していたという歴史の名残は存在します。
(c)例えば契約書において、“コモンロー上又は衡平法上のどちらに関しても”という趣旨で、”action at law or suit
in equity” という言い回しをすることがあります。
裁判管轄において、コモンロー及び衡平法の違いはなくなったとはいえ、両者が併存していた時代に、コモンローの下で成立した判例及び衡平法の下で成立した判例は、今なお有効な場合が数多くあります。
従ってどちらの法体系でも当事者の利益が守られるようにする必要があるのです。
(d)同じように、コモンロー又は衡平法上のどちらでもという趣旨で“courts of law and
equity”という用語が用いられる場合があります。
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