体系 |
外国の特許法・特許制度 |
用語 |
Affirmative defence/特許出願/禁反言 |
意味 |
Affirmative
defence(積極的抗弁)とは、英米法において、原告の申し立てた事由を単に否定するという立場を超えて、被告が新たな事由を積極的に抗弁として提出する場合の抗弁を言います。
|
内容 |
@Affirmative defence(積極的抗弁)の意義
(a)積極的抗弁とは、訴訟において、請求の根拠として一方の当事者が主張されている事実を前提とした上で、他方の当事者が新しい事実を主張して反論を行うことを言います。
(b)積極的抗弁は、通常、新事実を主張する側に証明責任(burden of proof)があります。
(c)積極的抗弁には、例えば次のものがあります。
・禁反言
・過失寄与(contributory
negligence)
・危険引受(assumption of risk)
・詐欺
・錯誤
・契約の更改
・債務不履行の免責事由
・不可抗力
・時効
・不法行為に対する免責事由
AAffirmative defence(積極的抗弁)の内容
(a)知的財産の分野では、積極的抗弁の一態様である“禁反言”の一例として、ファイルラッパー・エストッペル(包袋禁反言)があります。
(イ)包袋禁反言の主張は、均等論の主張に対する抗弁です。
(ロ)均等論とは、特許出願人によって記載されたクレームにおいて狭い表現形式が採用されているときに、発明を表現することの困難性を考慮して、一定の条件の下で、クレームに記載された特許発明と均等な発明が実施されたときに、特許権が侵害されたものと扱う理論です。
(ハ)包袋禁反言は、特許出願人が当該発明の審査段階で意見の主張・クレームの補正などの外形的な行動を行ない、この行動に起因して、審査官が当該特許出願に対して特許付与の決定をした場合に、その主張と矛盾する権利の主張を特許の成立後にしてはならないという理論です。
(ニ)例えばHughes事件では、特許出願人は、24時間運用可能な静止衛星を実現するために地球の回転軸の傾斜に応じて衛星が首振り運動をすることを発明の骨子とするものに関して、特許出願しました。
ところが類似の技術の存在が特許出願の審査において判明しました。
そこで特許出願人は、衛星が有するセンサで検知された地球及びターゲットの位置情報を、一旦、地球の表面にある基地に送り、基地に備えられた情報処理装置によって計算処理を行ない、その計算結果を静止衛星に送り返すという要件を追加する補正を行ない、それにより、当該特許出願に対する許可処分を得ました。
(ホ)こうした補正が評価された背景として、この特許出願が行われた当時の技術水準ではコンピュータの性能が低く、静止衛星内の限られたスペースに設置されるコンピュータでは大量の情報を処理できないという事情がありました。
(へ)しかしながら、当該特許出願の後にコンピュータの性能は飛躍的に向上し、静止衛星内に設置できる程度の小型のコンピュータでも、静止衛星の役目に要求される仕事量を十二分に処理できるようになっていました。
(ト)すると、特許権者(特許出願人から特許権を譲り受けた者)は、衛星のセンサが採取した情報を地上に送り、計算処理して地上に送り返すという要件を完全に満たしていない態様も均等発明の範囲と主張しました。
被疑特許侵害品は、衛星が有するセンサで採取した情報を地上に送っていましたが、それは事後報告的なものであり、衛星の姿勢制御に必要な情報の処理は衛星内に設置されたコンピュータで行っていました。
(チ)米国において、均等論の適用条件は、“実質的に同じ態様で実質的に同じ機能を発揮し、同じ結果をもたらす”ことです。
この条件を前述の特許発明の事例に当てはめれば、均等論が適用されるという結論になるだろうと推測されます。
(へ)しかしながら、特許出願の経緯を考慮すると包袋禁反言の理論が当てはまります。
そうした理由により、裁判所は原告の主張を退けました。
717 F. 2d 1351 219 Hughes
Aircraft Co. v. United States
(b)包袋禁反言の原則以外にも、禁反言には、多様な態様があります。
例えば、特許権を譲渡した者が後に裁判で当該特許権が無効であることを述べることを禁止する原則を、譲渡人禁反言の原則と言います。
無効理由としては、特許出願日の前に公開された先行技術の存在による新規性・進歩性の欠如などが該当します。
→譲渡人禁反言の原則(Doctrine of Assignor Estoppelとは
|
留意点 |
|