内容 |
①特許出願の請求項に製造方法Yによる生産物Xという発明が、また引用文献に製造方法Y’による生産物X’がそれぞれ記載されている場合に、生産物Xと生産物X’とが同じものかどうかは非常に判断が難しいものです。製造方法の手順の相異が物の構造にどのように影響するのかということは判りようがないからです。
②機械的な発明を方法的要素で特定した場合には、物の構造が同じかどうか判断できる場合があります。例えば“表裏2枚の密閉シート(ポリエチレン紙)の間に砂糖粒子を被包して、型押しと同時に2枚の密閉シートの外周縁を密着させて、貝類・魚類の型を現した慶賀用砂糖。”という発明であれば(昭和42(ワ)7408号「慶賀用砂糖」事件)、型押しと同時に密閉シートの外周を密着させることで内部を真空状態とするという構造であると判ります。従って型押しの工程の次に密閉シートを密着させる工程をしたら、2つの工程の間に外気が内部に入ってしまい、同じ構造にはなりません。このように通常の手法で特許出願に係る発明と引用発明とを対比できるのであれば、その手法を用いればたります。
③しかしながら、特許出願に係る発明が化学の分野である場合、成分Aに成分B及び成分Cを加えるというときに加える順序を変えて生産物の構造にどういう影響があるか判りません。例えば成分Cが化学反応A+B→Xを促進する触媒的な働きをするのであれば、成分Cを成分Bと同時に加えるかどうかで生産物の構成が変わってくることが考えられます。
④特許出願の請求項に係る発明と引用発明との厳密な対比が困難な場合であっても、
(イ)請求項に係る発明と出発物質が類似で同一の製造工程により製造された物の引用発明を発見した場合、
(ロ)請求項に係る発明と出発物質が同一で類似の製造工程により製造された物の発明を発見した場合、
(ハ)特許出願の後に請求項に係る発明の物と同一と認められる物の構造が判明し、それが特許出願前に公知の発明から容易に発明できたものであることを発見した場合、
(ニ)本件特許出願の明細書・図面に実施の形態として記載されたもの又はこれと類似のものについての進歩性を否定する引用発明を発見した場合
には特許出願の請求項に係る発明と引用発明とが類似のものであり、引用発明により進歩性が否定されるとの一応の合理的な疑いが生じます。
⑤そこで進歩性審査基準では、このような場合に、審査官は特許出願に係る発明と引用発明との厳密な対比を行わずに拒絶理由通知を行い、特許出願人の反論・釈明を待って最終的な判断をすることができると定めています。
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