体系 |
実体法 |
用語 |
技術常識と新規性・進歩性の判断 |
意味 |
技術常識は、新規性・進歩性の判断のさまざまな場面において参酌されます。
|
内容 |
@発明は、技術情報として人から人へ伝達されますが、発明を言語で表現するときに、人は自分の技術常識をベースとして発明の技術的意義を説明します。発明の内容の一部をなす事柄であっても、表現者にとって当然の事項はあえて説明せず、技術的に新しい、画期的と思うことは詳しく説明するものです。従って発明の技術的な価値を評価する作業(新規性・進歩性の判断)においては、特許出願時の技術常識を参照することが重要です。
A新規性・進歩性審査基準によると、技術常識とは、当業者に一般的に知られている技術(周知技術、慣用技術を含む)又は経験則から明らかな事項をいいます。
B新規性・進歩性審査基準では、次のような場面で技術常識を参酌するとしています。
(イ)「引用文献に記載されているに等しい事項」の認定
例えば電気関係の分野における技術常識(電気的干渉の防止を目的とするシールド手段としての導電体はアースに接続する)からみて、当業者であれば、引例中に特に記載がなくとも、引例記載のスイッチのシールド板がアースに落とされることを予定したものであると解釈できる。
(ロ)「請求項に記載した用語」の解釈
・記載が理解し難いが特許出願時の技術常識を参酌すると理解できる場合
・請求項に記載した用途の意義が技術常識を参酌すると物の構造を表すと解釈される場合
・用途発明の用途が技術常識を参酌すると新たな用途を提供したといえない場合
(ハ)発明が未完成発明であるか否かの判断
・ある発明が、当業者が当該刊行物の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて、物の発明の場合はその物を作れ、また方法の発明の場合はその方法を使用できるものであることが明らかであるように刊行物に記載されていないときは、その発明を「引用発明」とすることができない。
(ニ)下位概念で記載された引用発明の認定
・引用発明が上位概念で表現されている場合は、原則として下位概念で表現された発明は認定できないが、技術常識を参酌することにより、下位概念で表現された発明が導き出せる場合は下位概念で表現された発明を認定できる。
(ホ)事実上の選択肢の認定
発明特定事項が事実上の選択肢(包括的な表現によって、実質的に有限の数のより具体的な事項を包含するように意図された記載。例えば「
C(炭素数)1から10のアルキル基」)で記載されているときに、発明特定事項を選択肢の一つとした発明を認定できるが、「事実上の選択肢」かどうかは、請求項の記載のほか、明細書及び図面並びに特許出願時の技術常識を考慮して判断する。
(へ)当業者の解釈
当業者とは、本願発明の属する技術分野の特許出願時の技術常識を有し、研究、開発のための通常の技術的手段を用いることができ、材料の選択や設計変更などの通常の創作能力を発揮でき、かつ、本願発明の属する技術分野の特許出願時の技術水準にあるもの全てを自らの知識とすることができる者、を想定したものである。
(ト)進歩性否定の論理付け
論理づけに最も適した一の引用発明を請求項に係る発明と対比して、請求項に係る発明の発明特定事項と引用発明を特定するための事項との一致点・相違点を明らかにした上で、この引用発明や他の引用発明(周知・慣用技術も含む)の内容及び特許出願時の技術常識から、請求項に係る発明に対して進歩性の存在を否定し得る論理の構築を試みる。
(チ)引用発明と別の課題・別の思考過程による進歩性否定の論理付け
別の課題を有する引用発明に基づいた場合であっても、別の思考過程により、当業者が請求項に係る発明の発明特定事項に至ることが容易であったことが論理づけられたときは、課題の相違にかかわらず、請求項に係る発明の進歩性を否定することができる。しかし、別の思考過程を妨げる技術常識等が存在する場合には、この限りではない。
{本願発明}→表面に付着する水を逃がすための溝を、カーボン製ディスクブレーキに設けた発明。
{引用発明1}→カーボン製ディスクブレーキの発明。
{引用発明2}→表面に付着する埃を除去する目的で、金属製のディスクブレーキに溝を設けた発明。
{別の思考過程}→“表面に付着する埃が制動の妨げになること”を回避する。
{別の思考過程を妨げる事情}→そのカーボン製のディスクブレーキには、金属製のそれのような埃の付着の問題がないことがない。
|
留意点 |
技術常識は、特許出願時のものでなければなりません。
また副引用例の技術常識を主引用例に適用するのは、ハインドサイトになる可能性があります(→技術常識と後知恵(ハインドサイト))
|