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 パテントに関する専門用語
  

 No:  424   

進歩性審査基準/特許出願の要件(外国)/KSR判決・意義

 
体系 実体法
用語

KSR判決の意義(先例との関係)

意味  KSR判決は、特許訴訟を専属管轄とする下位裁判所(CAFC)が示した非自明性(進歩性)を判断する手法を最高裁判所が修正した判決(2007年)であって、米国特許出願の審査にグラハム判決(1966年)以来の実務に重大な影響を与えました。


内容 @KSR判決においては、自動車のスロットル制御用のセンサの位置を、最適な位置(ペダルの軸)に設置することが容易かどうかが争われました(→KSR判決とは)。

A米国の特許の判例では、発明の非自明性を事後的に否定するハインドサイト(後知恵)を避けることが大きなテーマとなっていました。

B最高裁判所は、グラハム判決において、発明の非自明性の判断手法に関する基本的な考え方(先行技術の範囲及び内容を定める、一つの先行技術と請求項に係る発明との相違点を認定する、当業者のレベルを定めるという3つの基準、及びハインドサイトを回避するための2次的考察)を示しました。

(イ)もっとも、商業的な成功・長期間望まれながら未解決であった課題・他人の失敗などの2次的考察は発明の主題を取り巻く環境に光を与えるために利用することができる(might)と言っているだけに過ぎません(下記参照)。

 Such secondary considerations as commercial success, long felt but unsolved needs, failure of others, etc., might be utilized to give light to the circumstances surrounding the origin of the subject matter sought to be patented. As indicia of obviousness or nonobviousness, these inquiries may have relevancy.

(ロ)考慮しなければならないと言っている訳ではないので、グラハムテストは柔軟な思考の余地を残していました。

Cしかしながら、アメリカ合衆国では常に最高裁判所への上告が認められる訳ではないので、CAFCなどの控訴裁判所が実質的に終局裁判所の役割を果たし、そこでの判決が米国特許出願の成否や侵害訴訟において影響力を持ちます。

DCAFCは、ハインドサイトを回避するために、TSMテストを提唱しました。主引用例を副引用例と組み合わせるなどの変更を加えるときには、teaching(教示)、suggestion(示唆)、motivation(動機付け)が必要であるというのです。しかしながら先行技術の中にこれらの要素を見い出せないときには自明性を否定できないというのは、ハードルの高い基準であり、CAFCの判断は次第に柔軟性を失い、硬直していったと言われています。

Eその一例がIn re Dembiczak(175 F.3d 994)です。

(イ)これはごみ袋の形態としてハロウィーンの人形の形状を採用した発明の特許出願の可否が争われた事例です。こうした形状のごみ袋は先行技術として見当たりませんでした(単なる袋としては周知)。

(ロ)こうした米国特許商標庁は先行技術から容易に考えられると判断して特許出願を拒絶しました。

(ハ)しかしCAFCは、ごみ袋に上記形状を適用する教示・示唆・動機付けが見当たらないとして特許庁の判断を覆しました。

(ニ)KSR判決後であったなら、こうした判断に至ったかどうかは疑問であります。
Dembiczak判決とは

FKSR判決は、最高裁判所の先例から遠ざかっていたCAFCの判例を修正する(柔軟な判断手法に戻す)という意味という意味があったと思われます。

Gなお、日本の進歩性審査基準では、“進歩性判断の基本的な考え方”として“進歩性の判断は、本願発明の属する技術分野における特許出願時の技術水準を的確に把握した上で、当業者であればどのようにするかを常に考慮して、引用発明に基づいて当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことの論理づけができるか否かにより行う。”としています。

 「当業者であればどのようにするかを常に考慮して」という文言も柔軟な判断であり、例えばハロウィーン人形の形態をごみ袋に適用するという特許出願があったとすれば、そうした工夫は困難性を推認する特別の事情(阻害要因など)がない限り当業者の通常の創作の範囲と判断されるものと思われます。


留意点

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