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①国内書面提出期間を設定した趣旨
特許協力条約(PCT)は、一定の方式的要件を具備することで国際出願日を認定された国際出願に国内出願の束としての効果を認める国際出願制度を基礎として、国際出願に関して、
・各指定国の特許出願の実体的審査に役立つ先行技術を探索する国際調査制度、
・国際段階で国際出願の内容を公開する国際公開制度
・出願人の請求により各国の特許出願の実体的審査の参考となる予備的見解を示す国際予備審査制度、
などの諸手続を経て国内段階へ移行させるものです。これにより、出願人の経済的負担が軽減されます。
この国内移行手続を何時までに行うのかというのは、PCTにとって大きな問題となります。
PCTは、優先権制度を採用するパリ条約の特別取極めであり、この優先権は、同盟第1国出願から一定の優先期間(特許出願の場合には12月)内にされた同盟第2国出願を、優先期間中の出来事により不利な扱いをしないというものですから、国際出願がパリ条約優先権を主張する場合を想定すると、少なくとも移行期間は少なくとも優先期間(12月)以上である必要があります。
優先期間の終了間際に国際出願がされた場合を想定して、そこから国際調査に6月を要するとし、さらに国際調査報告の出願人・指定国への送達などの事務的な処理に2月程度を要するとすると、優先日から20月という期間が必要です。さらに出願人の請求による任意的手続として国際予備審査が行われる場合を想定して、これに10月を要するとすれば、優先日から30月という期間を要します。
そうした観点から、従来は優先日から20月又は30月(国際予備審査が請求された場合)という2重の期間が設定されていましたが、特許出願人が国内移行手続を延長させるために予備審査請求をする場合が少なくなかったといいます。
こうしたことから、PCTは上記移行期間を優先日から30月に統一しました。
我国の国内書面提出期間は、こうした条約上の要請に鑑みて設定されたものです。
②国内書面提出期間の具体的内容
(a)国内書面提出期間は、原則として、優先日から2年6ケ月です(特許法第184条の4第1項)。
(b)しかしながら、外国語特許出願の翻訳文の提出に関しては、例外的に、優先日から2年6ケ月に対して翻訳文提出特例期間が付加されています。
翻訳文提出特例期間は、上記国内書面提出期間内に特許法第184条の5第1項の書面(発明者の氏名等の届出書兼国内手数料の納付書)を提出したときに、当該書面の提出日から2月です。
③国内書面提出期間の法律効果
(a)国内書面提出期間に国内書面を提出しなかったときには、我国に対する国際出願の効果は失われます。
(b)但し、外国語特許出願の翻訳文については、その提出に関して特例期間があります。
(c)特許出願人は、国内書面提出期間中でも出願審査請求(PCT条の明示の請求に対応)により国際特許出願の処理を請求できます。
(d)国内書面提出期間の満了又は当該期間内に特許出願人が出願審査請求をすることにより国内処理基準時が確定します。 →国内処理基準時とは
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