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521 特許出願の要件/拡大された先願の地位・発明の存在 |
体系 |
実体法 |
用語 |
拡大された先願の地位の条件(先願発明の存在) |
意味 |
特許出願・実用新案登録出願の明細書・請求の範囲・図面の記載事項の全体について、後にした特許出願等を排除する地位を認める条件のうち先願発明の存在に関する事柄に関して説明します。
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内容 |
@拡大された先願の地位の規定の趣旨と先願発明の存在
拡大された先願の地位の規定は、出願審査請求の制度に伴って、特許出願をした順序ではなく実体審査を請求した順序に特許出願の審査を行う意図で導入されました。
しかしながら、そればかりではなく、先願主義(特許法第39条)の補完という意味合いもあったと考えられます。
先願主義は、特許出願の請求の範囲同士を比較して行われますが、先願主義のみで特許出願相互の調整を行おうとすると、補正や訂正により権利範囲が変動するため、勢い先願主義の発明の同一性を広い範囲で認めなければならなくなり(後述の内在的同一参照)、無用の争いが生ずる可能性があったのです。
そこで先行の特許出願の明細書・請求の範囲・図面の記載事項(特許出願時の開示範囲に限る)に先願発明が存在することを条件として後願を排除できるようにしたのです。
A先願主義の内在的同一と拡大された先願の地位
(a)内在的同一とは、例えば
先願の請求の範囲に“A+b”からなる発明が、明細書に“a+b”からなる発明の実施例がそれぞれ記載されており、
後願の請求の範囲に“a+B”からなる発明が、明細書に“a+b”からなる発明の実施例がそれぞれ記載されている
というようなケースです。但しaはAの下位概念、bはBの下位概念であって、“A+b”から“a+b”へ変更すること、“a+B”から“a+b”へ変更することが、権利範囲の実質上の変更・拡張にならないようなものとします。
(b)こうした場合に仮に先願の請求の範囲の発明“A+b”と後願の請求の範囲の“a+B”とが同一ではないとすると、先願権利者及び後願権利者がそれぞれ権利範囲を“a+b”に減縮する訂正審判をしたときに全く同一の権利内容が併存することになるため、これを回避するために内在的同一という概念を導入していました(下図(I)参照)。
(c)現在では拡大された先願の規定があるため、先願の明細書の“a+b”と後願の請求の範囲の“a+B”との比較となり(上記部分図(I)の赤字部分)、そこで両者が実質的同一であると判断されれば、後願を排除できることになります。
→拡大された先願の地位が認められる条件(先願発明との同一性)
B先願の地位の拡大の限界
先願の地位を拡大するといっても、先行する未公開の特許出願を2つ以上合成し、一体的に評価することで、先願発明を認定するようなことはできません。例えば下図(II)のようなに上位概念である発明“A+B”の発明特定事項Aの下位概念aが第1の先願に、発明特定事項Bの下位概念bが第2の先願に記載されているような場合です。
こうした場合にまで拡大された先願の地位を認めると進歩性と同じ取り扱いになってしまうからです。
B先願発明の存在
拡大された先願の地位の対象である先願発明と認められるためには、特許出願の分割と対象とすることができる程度(特許出願日の遡及が認められる程度)に発明が開示されていることを要し、未完成発明であってはなりません。
もっとも実施例の数がやや足りない程度では未完成発明と主張できるとは限りません。
→拡大された先願の地位のケーススタディ1(未完成発明)
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留意点 |
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