内容 |
@リパーゼ判決の意味
(イ)特許出願の発明の要旨に関して請求の範囲及び明細書の関係については、古い時代にはいろいろな学説がありましたが、近年においては請求の範囲の記載に従うのが原則であるという解釈が一般的となっており、リパーゼ判決により、これが判例として確立しました。
(ロ)もっとも、リパーゼ判決は、特許出願の要件(新規性・進歩性など)に関しての保護範囲に関しての原則を示したものに過ぎず、妄りに本判決の趣旨を曲げて適用するべきではないというのが司法の立場です。以下、そうした判例の幾つかを紹介します。
Aリパーゼ判決の内容
(a)請求の範囲の記載不備の無効理由(旧特許法第5項及び第6項違反)の関係
(イ)平成13年(行ケ)第346号
(ロ)請求の範囲中の「所定の筏(さお)打ち角」という文言の不明確性が争われた事件
権利者の主張:「(リパーゼ判決に鑑みれば)特許請求の範囲の記載の技術的な意義がそれ自体では不明確であったとしても、発明の詳細な説明を参酌して明確になる場合には、出願に係る発明の要旨の確定には何ら支障がない。」
(ハ)判決が新規性・進歩性について審理するにあたって発明の要旨は特別の事情がない限り特許請求の範囲に基づいて定めなければならないとしたことと、特許出願の願書に添付された明細書の特許請求の範囲の記載が旧特許法第36条第5項の規定に合致しているかどうかとは、問題をことにするものである。
(c)包袋禁反言の法理との関係
(b)平成6年(ワ)第2090号
(ロ)権利者の主張:
(リパーゼ事件最高裁判決を援用した上で)、包袋禁反言の法理が適用されるための要件の一つとして、特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明に照らして明らかであるなどの特段の事情があることが必要であるところ、本件特許発明の特許請求の範囲の記載は一義的に明確であり、また、発明の詳細な説明に照らしてその記載が誤記であるとはいえないから、本件においては包袋禁反言の法理を適用すべき要件が充足されていない旨主張した。
(ハ)裁判所の見解
・包袋禁反言の法理は、民事法を支配する一般理念としての信義誠実の原則ないし禁反言の法理の特許法の分野における適用の問題であるから、原告主張の特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない等の特段の事情の存在の有無とは直接関係がなく、右特段の事情がないからといって、そのことだけでその適用が排除されるとする根拠はない。
・したがって、原告の右主張は採用することができない。
・リパーゼ事件最高裁判決は、包袋禁反言の法理につき判示したものではない。
|