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663
特別の事情1(リパーゼ判決)/新規性進歩性審査基準/特許出願の要件 |
体系 |
実体法 |
用語 |
特別の事情のケーススタディ1(リパーゼ判決) |
意味 |
進歩性審査基準では、特許出願の発明の要旨に関して特別の事情がない限り特許請求の記載の通りに解釈しなければならない旨を判示したリパーゼ判決を引用しています。ここでは特別の事情のうち“一義的に明確に理解できない”という文言に関して、事例を挙げてケーススタディします。
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内容 |
@事例1
〔事件番号〕
平成21年(行ケ)第10250号
〔判決言い渡し日〕
平成22年5月26日
〔事件の種類〕
拒絶査定不服審決取消請求事件(請求否認)
〔事件の概要〕
(イ)甲は、「マイクロコンピュータ用のICカード読取器を形成するプラグイン・リムーバブル・カード」の発明に関して特許出願を行い、新規性・進歩性の欠如を理由として拒絶査定を受け、拒絶査定不服審判を請求するも棄却されたため、本件訴訟に至りました。
(ロ)請求項1のうち、「ストッパは,外部コネクタ(11)側であって,厚寸部分(19),縁部(20)および薄寸部(18)の間に配置されたカード(10)の角隅部に位置する」という要件のうちで「隅角部に位置する」の解釈が問題になりました。
(ハ)具体的には、「隅角部に位置する」が“ある固定点に位置する”という意味なのか、それとも“一定の範囲で可動である”ものも含むのかです。
(ニ)引用文献のストッパは可動式であり、本件特許出願の明細書に開示されたストッパはそうではなかったからです。
(ホ)ちなみに「(特許出願人に)与えられた課題は、PCMCIAカードの寸法を変更すること無く、ICカードをPCMCIAカードに正確に案内かつ位置決めさせ得る手段を探求することである。」旨が特許出願当初の明細書に記載されています。
〔裁判所の判断(特許出願の発明の要旨に関する部分)〕
(イ)「位置する」との用語は,必ずしも固定されて動かない物にのみ用いられる用語ではなく,「角隅部に位置する」との記載のみをもって,ストッパが動かないものであると判断することはできない。
(ロ)また請求項1には「ストッパ自体を静止させる構造」について記載されていないところ,特定の構造が特許請求の範囲に記載されていないことは,一般に,請求項に係る発明が当該構造を有する場合も有しない場合も含むと解すべきであるから,特許請求の範囲の記載からは,本願発明における「角隅部に位置する」とは「角隅部から動かない」という意味であると一義的に解釈することはできない。
(ハ)よって,本願発明のストッパの「角隅部に位置する」とは,特許請求の範囲の記載からは,ストッパが動く態様及び動かない態様の双方とも包含すると解釈する余地があり,その技術的意義を一義的に明確に理解することができない。そこで,本件特許出願の明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することとする。
(ニ)本件特許出願の明細書には,「各ストッパは,…厚寸部分19,縁部20および薄寸部分18の間に位置せしめられたカードの角隅部のひとつに位置せしめられ」と記載されている(8頁11〜13行)。また,実施例においては,ストッパ15は,例えば,接着,鋳造成形により,又は分離可能な要素としてカード10の「主要面14に固定」されることが記載されている。さらに,図3におけるストッパ21もまた,「リムーバブル・カード10の厚寸部分19,縁部20および薄寸部分18との間に位置せしめられた角部」において,例えば接着などにより「固着」されていることが記載されている。
(ホ)他方,発明の詳細な説明の記載全体を参照しても,ストッパは「固定されている」ものとして説明されており,ストッパを移動可能なものとすることの記載も示唆もない。
(ヘ)よって,ストッパは,ICカードの挿入の最終段階で正確な位置決めを行うことができるようカードの角隅部に位置し,分離可能な要素としての態様を含むとしても,少なくとも,カードの使用時においてはカードの主要面に固定又は固着されているといえるから,本願発明のストッパは,「角隅部から動かない」ものであると認定することができる。
(ト)そうすると,本願発明のストッパの「角隅部に位置する」とは,ストッパが固定又は固着されて「角隅部から動かない」という意味であると解される。
〔コメント〕
(a)日本語の用法としては“位置する”という言葉は必ずしも“固定点にある”ことを意味しないでしょうが、位置決め手段に関する技術では位置する場所が定まらないと発明が成り立ちません。従って特許出願の明細書において固定された場所に配置されたストッパしか開示されていなければ、そうしたものに限定して解釈するという姿勢は妥当であると理解されます。
(b)なお、本件では裁判所は審決の理由中の発明の要旨の認定に否定的でしたが、進歩性がないと判断したため、審決を覆すには至りませんでした。
(c)特別の事情を参酌することは、よくあることではないですが、特許出願人の書き方では発明の要旨を理解するに不十分という場合には、参酌される可能性がります。発明の課題から特別の事情を参酌した例に関して、下記を参照して下さい。
→進歩性の判断(要旨認定における特段の事情)
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