内容 |
①マルティプルライセンスの意義
(a)実施権の種類として専用実施権と通常実施権とがあり、専用実施権は物権的権利であって同一範囲に複数の権利を重ねて設定することができないのに対して、通常実施権は債権的権利であって同一範囲に重ねて複数の権利を許諾することができます。
(b)こうした通常実施権の性質を利用して、複数の事業者に対して同一の権利に基づく実施権を許諾するマルティプルライセンス契約が行われることがあります。
②マルティプルライセンスの内容
(a)例えばA社が、ある地方公共団体の調達に係る公共下水道用鉄蓋について、Aの実用新案を取り入れた仕様が当該実用新案を他の事業者にもライセンスをすることを条件に採用されていたところ、Aが他の事業者6社(B~G)に対してライセンスをするような場合には、マルティプルライセンスに該当します。
(b)この場合に、A社がライセンスするとともに、
他の6社B~Gが当該地方公共団体に提出する当該鉄蓋の見積価格はAの見積価格以上とすることとしたこと、
A及びB~Gの工事業者渡し価格及び工事業者のマージン率を決定したこと、Aの販売数量比率を20%とし、
残りをA及びB~Gで均等配分することとしたこと
などが独占禁止法第3条違反とされた事例があります(平成5年9月10日審決、平成3年(判)第2号)。
③マルティプルライセンスが独占禁止法に抵触する場合
(a)マルティプルライセンスにおいて、当該技術の利用の範囲、当該技術を用いて製造する製品の販売価格、販売数量、販売先等を制限する行為は、次の条件を満たす場合には、不当な取引制限に該当する。これら事業者の事業活動の相互拘束に当たるからです。
(イ)ライセンサー及び複数のライセンシーが共通の制限を受けるとの認識の下にそれらの制限を行うこと。
(ロ)当該製品の取引分野における競争を実質的に制限すること。
(b)また、同様の認識の下で、当該技術の改良・応用研究及びその成果たる技術についてライセンスをする相手方、代替技術の採用等を制限する行為も、技術の取引分野における競争を実質的に制限する場合に不当な取引制限に該当します。
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