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@自然権理論の意義
(a)自然権理論は、中世の古い特許制度から近代的な特許制度へ移行する段階で現れた理論であり、主としてフランス革命後のフランスで提唱されました。
中世の特許は、主として王室特権として存在しました。王が産業の振興策として特許を付与する場合、外国から優れた技を持つ職人を招き入れるための特典(輸入特許)として与えられることが中心であったと言われています。これも振興策としては役に立ったのでしょうが、それは同時に、その影で苦心して発明を創作した発明者が冷遇されることを意味します。
(b)フランス革命により王制が倒れるとともに、王室の特権としての特許制度も見直されることになります。そもそも王は発明の成立と無関係なのだから、王室の都合で特許を与えるというシステムがおかしいのではないか、それでは発明は誰のものかというと発明者以外にはいないのではないか、ということです。
当時の人の言葉を借りると、“個人の庭に生えてきた木はその個人のものであるのであれば、個人の頭脳に宿ったアイディアもその人のものであろう。”ということです。
A現行の特許制度と自然権理論との関係
(a)自然権理論だけが理由ではありませんが、発明の成立と無関係な者(王と技術の導入者)の間で特許を授受する輸入特許のような制度はその後なくなっていきました。
(b)我国の特許制度も、特許出願をすることができるのは、特許を受ける権利を有する者(発明者又は承継人)に限られます。
(c)しかしながら、現行の法制を自然権理論だけで説明することはできません。
多くの国の特許制度では、特許出願人に対して一定の要件(保護を求める発明を開示する義務など)を課しています。もともと発明が発明者のものであれば、何故義務を履行しなければ特許権が付与されなのかということになるからです。
特許出願において適切に発明を開示されなければ、新規性や進歩性の審査も満足に行えず、不確実な権利により他の事業者が振り回される結果になりかねません。
インセンティブ理論の方が前述の要件が課されることの正当性を説明するには有利です。
社会に役立つ発明を特許出願手続を通じて適正に開示した者を保護すると言えばよいからです。
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