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@弁論主義の下での間接事実の意義
(a)弁論主義の下では次の原則があります。
原則1…当事者が主張しない事実は、裁判の基礎にしてはならない。
原則2…当事者が争わない事実は、そのまま裁判の基礎にしなければならない。
原則3…当事者間に争いのある事実の認定は、当事者が申し出た証拠によらなければならない。
(b)原則1に関しては、当事者が主張しない要件事実は裁判の基礎にしてはならないのですが、間接事実の認定に関しては証拠があれば当事者の主張に拘束されません。
進歩性の規定の「容易に」は規範的要件とされ、要件事実と間接事実との境が必ずしも明瞭ではありません。
そして進歩性の根拠となる先行技術文献には、ある技術に関して肯定的な面と否定的な面の双方が記載されている場合があります。例えば“理論的には○○の用途に用いることができるが、現時点では〜の問題を生ずるから実用的ではない。”という具合です。
進歩性を肯定する側(特許出願人等)が提出した証拠(先行技術文献)のうち当事者の主張している事項以外の事柄に裁判官が着眼して、証明しようとするのと逆の心証が形成され、事実認定される可能性がありますので、注意が必要です。
A間接事実の取り扱い
さらに間接事実の法律上の取り扱いを事例を挙げて説明します。
〔事例1〕…間接事実(商業的成功)に関して別途判断しなくても違法ではない。
事件番号 平24(行ケ)10083号
事件の種類 審決取消請求事件 「携帯端末を利用した商品情報システム」事件
“原告が主張する補正発明の構成が広く実施されているとの事実そのこと自体で補正発明の商業的成功を認めることはできないことは、上記2で判示したとおりである。
商業的成功の事実は進歩性判断の間接事実であるから、審決が、そのような商業的成功に関する原告の主張について別途判断しなかったとしても、判断遺脱の違法があるとはいえない。”
〔事例2〕…間接事実を証拠として追加することは審判の要旨変更とならない。 →審判請求書の要旨の変更とは
事件番号 平22(行ケ)10400号
事件の種類 審決取消請求事件 「手押し台車のハンドル取付部構造」事件
審決は、「甲2〜甲4の11の図面及び甲32の2〜7の図面は、いずれも間接事実(主要事実を間接的に推認させる事実)であって、請求人が甲32等を追加することは、間接事実を立証するための証拠を追加したにすぎないから、特許を無効にする根拠となる事実(主要事実)を実質的に変更する補正には当たらない。」と判断した。これに関して裁判所は「審決は、特許法131条の2第2項2号に違反しない。」と判示した。
〔事例3〕…前判決での判示事項は間接事実に関しては既判力がない。
事件番号 平10(行ケ)267号
事件の種類 審決取消請求事件 〔複合シートによるフラッシュパネル用芯材とその製造方法(乙)事件〕
“(先願の明細書等の記載事項に関する審決の認定に関して)
被告は、前判決において、原告主張の上記事項につき既に判断がなされ、これが確定しており、本件審決の認定判断は、その拘束力を前提としてなされたものであるから、何ら違法とすべき事由はない旨主張するが、…誤りである。
行政処分の取消判決の効力は、取消判決本来の形成力の作用そのものではない。それを補完して原告の権利救済を実行あらしめるために認められた特殊な効力である。
従って、その目的としては、取消判決の主文を導くのに不可欠な主要事実について裁判所がなした具体的な認定・判断の限りで生じるものである。そのため、判決中の傍論や主要事実を認定する過程での間接事実についての認定判断については、いかに明示的に説示されていても、これについて拘束力が生じることはない。”
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