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@権利障害規定の意義
(a)立証責任の分配原則の通説(法律要件分類説)では、法規を3つの類型に分けて立証責任を分配していきます。 →法律要件分類説とは
(b)3つの類型とは、権利根拠規定・権利消滅規定・権利障害規定です。
(c)例えば売買代金の支払請求訴訟であれば錯誤(民法第95条)が権利消滅規定に該当します。
(d)法規の分類は、条文の構造(但し書きや除くなどの文言、1項・2項の関係性など)に基づいて判断されます。特許法の場合、産業上の利用可能性が権利根拠規定であるのに対して、新規性や進歩性は権利障害規定であると考えられます。
〔権利根拠規定〕
産業上利用可能な発明をした者は特許を受けることができる。
〔権利障害規定1〕
但し、次の発明を除く
特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
特許出願前に日本国内又は外国において公然実施された発明
特許出願前に日本国内又は外国において刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
〔権利障害規定2〕
特許出願にその発明の属する分野における通常の知識を有する者が前項の前項各号に掲げる発明に基づいて容易に発明をすることができたときには、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
(e)前述の法律要件分配説によれば、権利障害規定では、権利発生の阻害を主張する者が、構成要件に該当する事実の証明責任を負います。
A権利障害規定の内容
(a)法律要件分類説によれば、特許取消審決においては、権利根拠規定である特業上の利用可能性に関しては特許権者(或は特許出願人)が立証責任を負うのに対して、権利障害規定である新規性や進歩性に関しては相手方(無効審判請求人など)が立証責任を負うことになります。
→特許出願人の立証責任
(b)もっとも、立証責任が当事者のどちら側にあるのか必ずしも明確ではない場合があります。
(イ)例えば平成17年(行ケ)第10193号「緑化吹付け資材および緑化吹付け方法」事件では、冒認出願であることを理由とする無効理由に対して、特許権者側は自ら積極的に特許を受ける権利が正当に承継されたことを証明しようとしませんでした。当該規定は根拠障害規定であると考えると、立証責任は無効審判請求人側にあると考えるのが通常だからです。
(ロ)しかしながら、裁判所は、特許法123条1項6号に基づく無効審判請求の場合には、特許出願人ないしその承継者である特許権者は、
特許出願が当該特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたことについて主張立証責任を負担すると判示する判例しました。
(ハ)その理由は、次の通りです。
“特許法は、29条1項に「発明をした者は…特許を受けることができる。」と規定し、
33条1項に「特 許を受ける権利は、移転することができる。」と規定し、 34条1項に「特許出願前における特許を受ける権利の
承継は、その承継人が特許出願をしなければ、第三者
に対抗することができない。」と規定していることから明らかなように、特許権を取得し得る者を発明者及
びその承継人に限定している。このような、いわゆる
「発明者主義」を採用する特許制度の下においては、特許出願に当たって、出願人は、この要件を満たしてい
ることを、自ら主張立証する責めを負うものである。”
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