内容 |
①裁定制度の意義
裁定制度では、行政機関が通常実施権の設定の裁定を行い、これを以て通常実施権の設定についての当事者間の協議が成立したものとみなす制度です(特許法第87条第2項)。契約自由の原則によれば、ライセンス契約をするか否か、するとしても誰を相手にするかは特許権者の自由であるところ、その原則を大きく修正する制度です。発明の実施を促進し、あるいは特許の活用を図るためです。なお、この制度により設定される通常実施権を裁定実施権と言います(→裁定実施権とは)
②裁定実施権の種類
(a)特許権者の発明が継続して3年以上不実施である場合(特許出願の日から4年を経過していない場合を除く)の裁定実施権(特許法第83条)
特許権の排他的効力によりライバル会社の実施を排除している以上、特許権者は適正に特許発明を実施する義務を負うと考えられます。特許出願の日から4年を経過して、継続して3年以上実施していないときには、特許権者の義務(実施の義務)を果たしているとは言えないからです。
(b)利用発明である自己の特許発明を実施するための裁定実施権(特許法第92条)
先の特許出願(先願)の基本発明を利用して成立する特許発明(利用発明)は基本発明の特許権者から見ると目の上のこぶですので、それに対して実施権を許諾するしないを私的自治に委ねると、有用な利用発明が実施をされずに埋もれてしまう可能性が高いことになります。それを放置すると、改良発明の特許出願をしようとする者がいなくなり、技術の進歩性通じて産業の発達を図る特許制度の趣旨に反するためにこうした裁定実施権が認められています。
(c)公共の利益のための裁定実施権(特許法第93条)
例えばガス漏れに関する技術に係る特許出願が許可され、当該特許発明を実施するとガス中毒者が大幅に減少することが期待されるような場合が該当します。
③裁定制度の手続
裁定の手続に先立って、当業者間で協議を行うことが必要です。可能な限り私的自治を尊重するためです。
裁定の請求があったときには、特許権者・専用実施権者に答弁書を提出する機会が与えられます(特許法第84条) →答弁書とは
さらに行政機関は、通常実施権の設定の裁定をしようとするときには、審議会等の意見を聴取する必要があります(特許法第85条)。
公平な第三者機関の意見を参考にするためです。
裁定の方式として、通常実施県を設定するべき範囲や、対価の額及び支払方法・時期を裁定で定めなければなりません。
対価の額などを当事者に委ね、その金額が高すぎると、実施がされず裁定実施権を設定した意味がないからです。
裁定は、対価の最初の支払がないときには失効し(特許法89条)、また裁定の理由が消滅した場合などには取り消されます(特許法第90条)。
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