内容 |
@事例の概要
職務発明に関して、従業者である発明者甲及び発明者から特許を受ける権利を譲り受けて特許出願をした特許権者乙と、特許出願の直前に甲が勤務していた会社丙と、甲が以前勤務していた会社丁とが通常実施権の確認を求めて三つ巴の争いとなった事例を紹介します。
→確認裁判とは
A事例の内容
[事件番号]
平成4年(ネ)第867号
[事件の種類]
職務発明の通常実施権の存在の確認訴訟
[事件の経過]
昭和四八年頃 甲が建築会社である丁に在籍していた。
昭和五一年七月一日から同五二年七月二〇日迄 甲が駐車場コンサルト業を営む丙に在籍していた。
昭和五二年七月二〇日 甲から特許を受ける権利を譲り受けた乙が「傾床型自走式立体駐車場におけるフロア構造」の発明について特許出願を行う。昭和五七年七月二八日当該特許出願について出願公告され(特公昭57-35348号)、特許1148663号として成立する。
昭和五七年五月一一日 丙は、甲及び乙に対して“当該特許発明は甲が丙に在職中になした職務発明であるから、丙が法定通常実施権を有する”ことの確認を求める旨の訴訟を提起する。
→職務発明とは
昭和六一年一月二三日 丁は、独立当事者参加の申請を行い、丙と甲及び乙とを相手方として、当該特許発明は甲が丁に在職中になした職務発明であるから、丙が法定通常実施権を有する”ことの確認を求めた。丙と甲及び乙とは、「参加人の請求を棄却する」旨の判決を求めて争った。
平成元年二月一日 原審裁判所の和解勧告により、丁と甲及び乙との間で和解が成立した。和解条項の要旨は、“乙及び丁は、特許発明は甲が丁に在職中その職務に起因して完成したものであることを確認する。乙は丁に実施許諾する。実施料は1.5%とする。但し、丁が乙に工事の設計を委託したときには丁は実施料を支払う義務を負わない。”というものである。
これにより甲及び乙と丁との裁判は終結した。
平成四年一二月二一日、原審裁判所は丙が本件特許権につき職務発明の通常実施権を有することを確認する旨の判決を言い渡した。乙は丙を相手方として本件控訴を申し立てた。
[控訴審裁判所の判断]
(a)本件のような三当事者間の法律関係を合一に確定させることを目的とする訴訟において、そのうちの二当事者のみの間において当該訴訟物につき裁判上の和解(その内容が残りの当事者に不利益か否かを問わない。)をすること及び参加人が参加の相手方の一方のみに対して参加の申立てを取り下げることは、三当事者間の一紛争を一つの判決により合一に確定すべき独立当事者参加訴訟の構造を無に帰せしめるものとして許されないものと解するのが相当である。
(b)そうすると、被控訴人を除外してなされた参加人と控訴人及び甲との間の本件和解並びに参加人の被控訴人のみに対する参加申立ての取下げはいずれも無効であり、参加人の被控訴人、甲及び控訴人に対する参加訴訟は未だ終了していないものといわざるを得ない。
(c)原審裁判所は、本件和解の成立及び参加人の被控訴人に対する参加申立ての取下げにより、参加人の被控訴人、甲及び控訴人に対する参加訴訟が終了したものとして以後の手続を進め、控訴人と被控訴人間の本訴事件についてのみ判決をしたものであるから、原判決の手続にはこの点において違法があり、その瑕疵は補正することができないものであるから、原判決を取り消す。
|