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 パテントに関する専門用語
  

 No:  952   

裁判上の自白/特許出願/新規性/特許侵害

 
体系 権利内容
用語

裁判上の自白のケーススタディ

意味  裁判上の自白とは、民事訴訟において、自己に不利な法律関係の基礎になる行為を告白する行為であって、裁判所内で行われるものです。ここでは、特許侵害訴訟で裁判上の自白が成立した例と裁判上の自白が不成立であった例とをケーススタディします。


内容 @事例1(裁判上の自白成立)

(a)特許侵害訴訟では、要素A+B+C+D+Eからなる発明に関して

 原告は、被告の係争物(又は係争行為)が全ての要件を満たしているから、特許侵害が行われていると主張し、これに対して、

 被告は、要件の全部又は一部を満たさないから、特許発明を実施していないと主張する

 ことがあります。

 被告が準備書面において“要件Cを満たすことは認めるが、要件△△を満たさないから、特許侵害ではない。”旨を陳述し、

 後日、“被告製品を再調査したところ、要件Cを満たさないことが判明したので、先の陳述で述べた事柄(自白)は撤回する。”と主張しても、撤回が認められる可能性は低いです。

(b)一般に自白は、主要事実に関する事柄に限られますが、特許発明の要件A+B+C+D+Eのそれぞれに該当するか否かは、権利侵害の成否に直結しますから、主要事実ではないという主張は通りにくいと言えます。

(c)また自白の撤回は、(i)相手方が撤回に同意したこと、(ii)自白が真実ではなくかつ錯誤によるものであることを証明したこと、を必要とします。

 しかしながら、(i)の裁判の相手方が自白の撤回に同意することは殆ど期待できません。 

(ii)に関しても、その反真実性を示す客観的な証拠を裁判官に示す必要があり、それは簡単なことではありません。

 こうしたケースで被告である会社の担当者に“自社の製品が要件Cを備えていない。”旨を陳述させて、自白が真実でないことを証明しようとした事例がありますが、裁判官は、“それは(被告会社の)担当者の陳述書に過ぎないから、反真実の立証としては十分なものとは言えない。”と言って退けられた事例があります(例えば平成24年(ワ)第31440号)。

 裁判官は、単なる当事者の陳述をそれほど重要視しないのです。

A事例2(裁判上の自白不成立)

[事件番号]平成20年(ワ)第28967号

[事件の種類]特許権侵害差止等請求事件

[発明の名称]納豆菌培養エキス

[特許発明の内容]

 A ナットウキナーゼと

 B 1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを

 C 含有する納豆菌培養液またはその濃縮物を含む,

 D ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンクまたは錠剤の形態の

 E 食品。

[事件の経緯] 

自白に関しての経緯を追うと、原告の主張によれば、

(a)被告は,本件発明の構成要件Cについて,平成20年11月25日付け被告準備書面(1)においては,被告製品が,構成要件Cを充足することを認めていたが,平成21年7月17日付け被告準備書面(5)において,これを争うようになった、

(b)被告が,平成20年11月25日付被告準備書面(1)により構成要件Cの充足を認めたことは裁判上の自白に該当する、

(c)また,被告が,平成21年4月23日付け被告準備書面(3)においてこれを否認したことは,自白の撤回に該当するが,原告は同意しないし,自白の撤回の要件も具備しない、

(d)被告製品が構成要件を充足しない理由となる「納豆菌培養液またはその濃縮物」に精製方法を加えてこれを限定する解釈は,本来,答弁書の段階で被告において主張すべきものであり、したがって,原告が「納豆菌培養液またはその濃縮物」について,被告が想定していない解釈をしたからといって,自白の撤回を正当化しうる「錯誤」となるものではない、

 これに対して被告が自白は成立しない、成立したとしても真実ではないから、これを撤回すると反論した事例です。

[要件Cに関する原告の解釈]

 「納豆菌培養液またはその濃縮物」は,納豆菌培養液に通常含まれる(納豆菌からの分泌物及び培地成分の残渣に由来する)種々の栄養分のうちの全部又は相当部分(有意な量)が残存しているものであることと理解される。

(∵特許出願の審査においても、本件発明は“ナットウキナーゼ及び納豆菌培養液に由来する栄養分の全部又は相当部分を残存させつつ,ビタミンK2を選択的に除去して1μg/g乾燥重量とした食品”という物の発明として先行技術に対して新規性が認められている。)

[要件Cに関する被告の解釈]

 「納豆菌培養液またはその濃縮物」は,ナットウキナーゼを含有し,かつビタミンK2含量1μg/g乾燥重量以下を満たすように処理したものであり,納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部又は相当部分が含まれるものではない。

[自白の成立性に関する被告の主張]

 被告は構成要件Cの「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義について,ナットウキナーゼを含有し,かつビタミンK2含量1μg/g乾燥重量以下を満たすように処理した物を含み,かつ納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部又は相当部分は含まれないものとの解釈の下で構成要件Cの充足性を認めたものである。

 したがって,自白に拘束力が生じるとしても,被告製品に「納豆菌を培養した培養液を,ナットウキナーゼを含有し,かつビタミンK2含量1μg/g乾燥重量以下を満たすよう処理した物で,かつ納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部または相当部分は含まない物」を含有しているという事実である。

 この部分に自白が認められたとしても,構成要件Cの充足性が認められることにはならないから,構成要件Cの充足性についての自白は成立しない。

[自白の成立性に関する裁判所の判断]

 原告は,被告は,平成20年11月25日付け被告準備書面(1)により,被告製品の構成要件Cの充足性を認めたから,自白が成立すると主張する。

 しかしながら,本件の審理の経過に照らすと,被告は,「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義について,「納豆菌を培養した液体のうちナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する状態のもの」との理解の下に構成要件充足性を認めたものと理解されるのであって,上記認定のとおり,その解釈を前提とした自白は真実に反し,錯誤に出たものと認められるから,自白の成立は認められない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。

[コメント]

 裁判所の経過より、自己に不利な陳述が、最初から勘違いや不一致であることが裁判所にとって明らかであるときには、自白として成立しないか、たとえ自白として成立しても撤回は認められるべきであるという事例です。


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