内容 |
(A)事例1
[事件番号]平成16年(ワ)第10298号
[事件の種類]損害賠償請求事件
[事件の経緯]
本件は,後記特許権等を有し,被告との間でその通常実施権許諾契約を締結していた原告が,被告に対し,同契約上の債務不履行(後記各契約4条2項所定の,許諾数量超過分についての原告への製造委託義務違反)に基づき,1268万4900円の損害賠償及びこれに対する同契約の有効期間経過後の平成16年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。
自白の成否に関して、裁判所が顕著な事実と認定した経緯は次の通りである。
a 原告は,訴状において,損害額について,「原告が,前記524組のマンホール蓋及び受枠の製造委託契約を締結した場合に得べかりし利益は,金12,684,900円である。」と主張した。
b 被告は,答弁書において,上記訴状での原告の主張を否認したうえで,「なお,
@原告が被告に販売した人孔鉄蓋の値段は一組4万円乃至4万5000円である。
A平均4万2500円として,524組の販売価格は2358円となる。
B原告の逸失利益が1268万4900円とすると,利益率が約55.1%という異常な数値となる。
C原告において,逸失利益が1268万4900円となる計算根拠を具体的に示されたい。」と主張した(なお,文番号は当裁判所が付した。)。
c 原告は,平成17年7月14日付準備書面(3)において,「原告は,被告の上記主張(注:上記bの主張)を有利に援用する。」と主張した。
d 被告は,平成17年8月26日付被告第四準備書面において,前記争点(2)に関する被告の主張(1)イ(ア)のとおり主張した。
e 被告は,平成17年10月4日付被告第六準備書面において,前記争点(2)に関する被告の主張(1)イ(イ)(ウ)のとおり主張した。
[原告の主張]
ア(ア)原告が被告に販売した人孔鉄蓋の値段は一組4万円ないし4万5000円であるから,平均4万2500円とすると,被告が製造販売した超過数量524組の販売価格は2358万円となる。
(イ)したがって,原告が被告にOEM製造・販売することによって得べかりし売上収入は,2358万円となる。
イ 上記ア(ア)の事実は,被告が答弁書で主張した後,原告が平成17年7月14日付準備書面(3)で有利に援用したことにより自白が成立した。したがって,被告が1組当たり4万2500円という販売価格を原告の逸失利益算定の基礎とするのを否認するのは自白の撤回に当たるところ,上記事実は事実に反するものではないから,自白の撤回は許されない。
[被告の主張]
(1) 原告の得べかりし売上収入について
イ 平成17年8月26日付被告第四準備書面での主張
(ア)被告が答弁書において主張した価格は,過年度の取引価格であって,しかもOEM製造による取引価格でもない。したがって,「被告が過年度において購入した原告製造にかかる人孔鉄蓋の値段は一組あたり概ね4万円乃至4万5000円である。」と訂正する。
かかる過年度の取引における人孔鉄蓋の価格は,逸失利益ではないのはもちろん,原告が被告に対して販売したであろう価格でもなく,それを推認する為に役立つ事実であって単なる間接事実に過ぎない。従って答弁書での被告の上記主張について裁判上の自白は成立しない。
(イ) 原告は,平成15年12月8日付で,福岡市,直方市,甘木市及び吉井町の各自治体型の見積書を,平成16年2月25日付けで,北九州市型の見積書を被告に交付しているが,これらによれば,福岡市,直方市,甘木市及び吉井町の各自治体型の人孔鉄蓋のOEM生産見積額は一組平均3万6135円であり,北九州市型鉄蓋のOEM生産見積額は一組平均3万4545円である。
かように,原告が被告に対しOEM製造のために見積書を提出している以上,被告が過去の人孔鉄蓋の値段を一組4万2500円とする主張を以て本件紛争解決の基礎とする意思を有するはずがなく,原告の逸失利益を算定する基礎としての鉄蓋の単価を一組4万2500円とする裁判上の自白は成立しない。
(ウ) 前記(イ)での価格は,原告による第1回目の見積額の提示による価格であって,この金額がそのまま受注金額となったはずはない。被告としては,この6割程度を獲得目標として交渉する予定であった。したがって,原告の逸失利益算定の基礎となる販売価格としては,福岡市,直方市,甘木市及び吉井町の各自治体型では一組平均2万1681円,北九州市型では一組平均2万0727円とすべきである。
[裁判所の判断]
(ア) 被告による自白の成否についての点の当事者の主張に関し,次の経過があることが当裁判所に顕著である。
(事件の経緯を参照)
(イ) 上記bによる被告の答弁書での主張を検討する。
被告が原告主張の逸失利益額を全部否認していること,上記bによる被告の主張は,なお書きとして書かれていること,結びとしてCの釈明(原告の主張に係る逸失利益の計算根拠の釈明)があることからすると,その趣旨は,Cの釈明をするための説明と解される。
そして,@では「原告が被告に販売した人孔鉄蓋の値段」を主張しているから,これが過年度の実績価格のことを述べていることは明らかである。そして,A及びBでは,これに続けて,この過年度の実績価格に被告の超過数量524組を乗じた額を計算し,この販売価格を前提とした場合には原告主張の逸失利益額は異常に高いことになると主張している。しかし,原告がマンホール蓋及び受枠の製造委託契約を締結した場合に得べかりし利益の基礎となる金額に,原告が製造委託契約を締結した場合に販売できたであろう金額であって,過年度の実績価格ではないことは明らかであるから,A及びBの趣旨は,過年度の実績価格に基づいて算定したと仮定した場合であっても,原告の主張が不合理であるという,仮定の計算を示し,Cの釈明の合理性を主張しているものと解される。このように,仮定の計算と理解してこそ,被告が,Aにおいて,「平均『は』4万2500円『であるから』」「販売価格は2358万円『である。』」と主張せず,「平均4万2500円『として』」「販売価格は2358万円『となる。』」と主張していることや,原告主張の逸失利益額について,「販売価格が2358万円を下らないことを認める。」等の認否をせず,全部を否認していることと整合するものである。
そして,仮定の計算は,事実がそうであると主張するものではないから,その計算に用いられた仮定の数値を事実の主張とすることはできないし,それについて自白が成立したということもできない。これに反する原告の主張は採用することができない。
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