トップ

判例紹介
概要
今岡憲特許事務所マーク



●平成6年(オ)第1083号 特許侵害・請求棄却→取消→差戻


均等論/

 [判決言い渡し日]
平成10年2月24日
 [発明の名称]
無限摺動用ボールスプライン軸受
 [主要論点]
均等論の成立を認めるには、積極的要件(本質的要件、置換可能性、置換容易性)のみで足りるか。

 [判例の要点]
 均等論が成立するためには、次の5つの要件が必要です。

特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合に、

@右部分が特許発明の本質的部分ではなく、


A右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、


B右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、


C対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、


D対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないこと


 [本件へのあてはめ]
(a)本件の無限摺動用ボールスプライン軸受は、

・円筒内壁に断面U字状のトルク伝達用負荷ボール案内溝と、該溝よりもやや深いトルク伝達用無負荷ボール案内溝を軸方向に交互に形成し、その両端部に前記深溝と同一深さの円周方向溝を形成した外筒と(構成要件A)、

・外筒内壁の軸方向に形成したトルク伝達用負荷ボール案内溝とトルク伝達用無負荷ボール案内溝に一致して薄肉部と厚肉部を形成し、さらに前記薄肉部と厚肉部との境界壁に形成した貫通孔と前記厚肉部に形成した無負荷ボール溝ヘボールがスムーズに移動可能な無限軌道溝を形成した保持器と(構成要件B)、

・該保持器と前記外筒間に組み込まれたボールとによって形成される複数個の凹部間に一致すべく複数個の凸部を軸方向に形成したスプラインシャフト(構成要件C)、

・嵌挿組み立てて構成される(構成要件D)

 ものです。

(b)原審は、構成要件Bについて、次のように判断しました。

 本件発明の保持器が一体構造であり、保持器自体によってボールの無限循環案内、スプラインシャフト引き抜き時のボール保持機能及びシャフト凸部を案内するための凹部形成機能を有するのに対し、係争物は、外筒の負荷ボール案内溝間にある突堤上端部とプレート状部材11及びリターンキャップ31の三つの部材の協働によって本件発明の保持器の前記各機能を実現している点で構成を異にするが、

 本件発明と係争物との間に置換可能性及び特許出願時における置換容易性が認められる。

(c)しかしながら、原審で示された証拠によると、下記の理由により、係争物は、公知の無負荷ボールの円周方向循環及び複列タイプのアンギュラコンタクト構造を備えたボールスプライン軸受に公知の分割構造の保持器を組み合わせたものに過ぎないと解釈されます。

・係争物における三枚のプレート状部材11及び二個のリターンキャップ31よりなる分割構造の保持器は、本件発明の特許出願前に頒布された刊行物である米国特許第三三六〇三〇八号明細書における無限摺動用ボールスプライン軸受に示されていること。

・このような分割構造の保持器によりボールを保持するためには外筒の負荷ボール案内溝間に突堤を設けることが技術的に必然であるところ、このような構成は前同様の刊行物である米国特許第三三九八九九九号明細書のボールスプラインに示されていること。

・無負荷ボールを円周方向に循環させる点及びスプラインシャフトの凸部をトルク伝達用負荷ボール案内溝の負荷ボールが左右から挟み込む複列タイプのアンギュラコンタクト構造を採用している点に関して、本件発明の特許出願前に頒布された刊行物である特公昭四四―二三六一号公報、ドイツ連邦共和国特許第一四五〇〇六〇号公報及び米国特許第三四九四一四八号明細書に記載があること

(d)前述の公知の無負荷ボールの円周方向循環及び複列タイプのアンギュラコンタクト構造を備えたボールスプライン軸受と公知の分割構造の保持器との組合せに想到することが本件発明の開示を待たずに当業者において容易にできたものであれば、係争物は、本件発明の特許出願前における公知技術から右出願時に容易に推考できたことになります。

(e)原審は、専ら右部分と係争物の構成との間に置換可能性及び置換容易性が認められるかどうかという点について検討するのみであって、係争物と本件発明の特許出願時における公知技術との間の関係について何ら検討することなく、直ちに係争物が本件明細書の特許請求の範囲に記載された構成と均等であり、本件発明の技術的範囲に属すると判断したものである。原審の右判断は、置換可能性、置換容易性等の均等のその余の要件についての判断の当否を検討するまでもなく、特許法の解釈適用を誤ったものです。



 [先の関連判決]
 
 [後の関連判決]
平成8年(ワ)第8927号(本質的要件の意味)
 詳細を知りたい方はこちらをクリックして下さい
 見出しへ戻る




今岡憲特許事務所 : 〒164-0003 東京都中野区東中野3-1-4 タカトウビル 2F
TEL:03-3369-0190 FAX:03-3369-0191 

お問い合わせ

営業時間:平日9:00〜17:20
今岡憲特許事務所TOPページ |  はじめに |  特許について |  判例紹介 |  事務所概要 | 減免制度 |  リンク |  無料相談  

Copyright (c) 2014 今岡特許事務所 All Rights Reserved.