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特許判例紹介(商標)



●平成22年(行ケ)第10152号 名奉行金さん


取引の実情の考慮/観念類似/商標の類似

 [事件の概要]
@甲は,商標登録第5202737号(本件商標は「名奉行金さん」の文字を標準文字で表記されたものであり,その指定商品は,第28類「遊戯用器具」である。)の商標権者です。

A乙は,平成21年7月3日,特許庁に対し,本件商標登録の無効審判を請求し,本件商標が,乙を商標権者とする「遠山の金さん」の文字商標(指定商品に遊戯用器具を含む。以下「引用商標」という。)と類似し,他人の業務との混同を生じさせるので,商標法4条1項7号,11号,15号に該当すると主張しました。

B甲の裁判での主張の要旨は次の通りです。
(イ)審決には,本件商標と引用商標との類否の判断を誤り,本件商標登録が商標法4条1項11号に該当するとした違法がある。

(ロ)本件商標は,「名奉行金さん」の文字を標準文字で表記したものであり,「名奉行」と「金さん」とを組み合わせたものである。本件商標中から,「名奉行である遠山金四郎」や「名奉行の遠山金四郎」の観念を生じるが,一連のものであることに照らすと,「名奉行」との資質・職業と切り離した,単なる「遠山金四郎」との観念は生じない。

(ハ)引用商標は,「遠山の金さん」の文字を標準文字で表記したものであり,その構成文字全体より,人物としての「遠山金四郎」の観念のみを生じさせ,「名奉行の遠山金四郎」との観念は生じない。

(ホ)したがって,本願商標と引用商標とは,観念において相違する。

(ヘ)本件商標と引用商標は,歴史上の同一人物の氏名・略称等において共通する商標であっても,一方の商標において,資質や性状等を表す語が付加されているため,観念において相違する。本件商標の「名奉行」部分は,指定商品であるパチンコ機等と関連性がなく,出所識別機能が高いのに対して,「金さん」部分は,出所識別機能が高いとはいえない。

(ト) 本件商標と引用商標とは,観念において相違し,また,称呼及び外観においても相違するから,両商標は類似しない。

(チ)パチンコ機等の取引においては,需要者ないし取引者が,遊技場営業者及び販売代理店に限られ,販売ルートも直販ルートと代理店ルートに限られている。…遊技場営業者がパチンコ機等の購入,設置をする際には,公安委員会や警察等による風俗営業関係行政に対応する必要があり,その際,メーカー名や機種名が正確に特定されている。…同一の人物やキャラクターを使用したパチンコ機等であっても,遊技場営業者や販売代理店は,メーカー名や当該機種で使用される商標を書面上で確認したり,メーカー名が記載された実機を精査したりしながら取引を行っており,商標により誤認混同が生じることはない。

(チ)乙は,パチンコ機等の取引者・需要者に,遊技者が含まれると主張する。しかし,遊技者は,パチンコ機等の流通及び購入に関与せず,パチンコ機等の需要者ではないので,パチンコ機等の取引者・需要者に含まれない。

C乙の裁判での主張の要旨は次の通りです。
(イ)商標における観念の類否は,当該観念に対応する文字・語句が商標の構成要素として明示されているか否かを問わず,需要者又は取引者が思い浮かべる両商標の意味内容が相紛らわしく知覚的に商品混同を起こす危険があるか否かを判断すれば足りる。

(ロ)甲は,引用商標には「名奉行」との語句を含まないことから,「名奉行の遠山金四郎」の観念が生じないと主張する。しかし,少なくとも明治時代以降,「遠山の金さん」は,「名奉行の遠山金四郎」として,歌舞伎,講談,大衆文学,映画,テレビ等を通じて,大衆に広く知られるようになった。したがって,引用商標は,取引者・需要者に対し,「名奉行の遠山金四郎」との観念をも生じさせる。

(ハ)パチンコ機等は,遊技場営業者(パチンコホール)及び販売代理店(代行店)のみならず,ゲームセンターや露店などによっても購入・設置されているほか,中古品販売などを通じて一般家庭向けにも販売され,インターネットオークションでも多数取引されている。

(ニ)また,需要者には取引者及び一般消費者の双方が含まれるところ,パチンコ遊技場等においては,一般消費者である遊技者が,パチンコ機等に付された商標により機種を識別・選択し,遊技を行っており,遊技者もパチンコ機等の需要者に含まれる。


 [裁判所の判断]
@裁判所は商標の類似の判断主体に関して次のように判断しました。
(イ)本件商標及び引用商標は,主としてパチンコ機等において使用されているところ,パチンコ機等の取引者,需要者は,製造業者,遊技場営業者(パチンコホール),販売代理店(代行店),ゲームセンター及び中古品販売業者などのほか,中古品等を売買する個人も含まれることが認められる。

(ロ)パチンコ機等の大部分は,遊技場に設置され,遊技者はパチンコ機等を売買することはないが,パチンコ機等に付された商標によりパチンコ機等の出所を認識,識別した上で利用するのが通常であり,また,遊技者の嗜好や人気が遊技場営業者や販売代理店がどの機種を取扱うかということに大きく影響するから,遊技者の認識等をも考慮して,商標の類否を判断することが合理的である。

Aそして裁判所は、商標の類否に関して次のように判断しました。
(イ)以上の取引等の実情を総合考慮するならば,本件商標と引用商標とは,外観,称呼において,その全体を一連に把握すると類似しない点があるものの,歴史上の人物である「遠山金四郎」,及び時代劇等で演じられる「名奉行として知られている遠山金四郎」との観念を生じる点において類似することから,商品の出所につき誤認混同のおそれを生じさせるというべきである。

(ロ)甲は,パチンコ機等の取引における需要者,取引者が,遊技場営業者(パチンコホール)及び販売代理店(代行店)に限られることを前提に,パチンコ機等の取引は特殊であり,行政上の規制等を通じて商品の正確な特定がなされるから,本件商標と引用商標が誤認混同されるおそれはないと主張する。しかし,前記のとおり,パチンコ機等の需要者,取引者には,遊技場営業者(パチンコホール)及び販売代理店(代行店)のみならず,ゲームセンター,中古品販売業者,中古品等を売買する個人及び遊技者も含まれるから,甲の上記主張はその前提において失当であり,採用することができない。


 [コメント]
 甲が取引の実情に基づく理由(パチンコ業界においては行政上の規制等を通じて商品の正確な特定がなされるので出所の混同は生じない)から観念類似ではないと主張したのに対して、乙は同じく取引の実情に基づく反論(取引者・需要者には競技者も含まれる)を行い、結局後者に軍配が上がりました。商品の購入・流通に関与しない商品の使用者も需要者に含まれる可能性があるということを示した点で注目されます。

 [特記事項]
 
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