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特許判例紹介(著作権)



●昭51(オ)923号 (パロディ写真事件)


正当な範囲での引用/著作権

 [事件の概要]
@事実関係は次の通りです。
 甲は、自ら撮影して創作しその著作権を取得したカラー写真を写真集に発表した。
乙は、その写真を利用し、その一部を切除してこれを白黒の写真に複製したうえ、その右上にブリジストンタイヤ株式会社の広告写真から複製した自動車スノータイヤの写真を配して合成したモンタージュ写真を作成した。

A原審は次のように判断しました。
本件モンタージュ写真の作成はその目的が本件写真を批判し世相を風刺することにあつたためその作成には本件写真の一部を引用することが必要であり、かつ、前記のような引用の仕方が美術上の表現形式として今日社会的に受けいれられているフォト・モンタージュの技法に従つたものとして客観的に正当視されるものであつたから、他人の著作物の自由利用として許されるべきものと考えられる。


 [裁判所の判断]
@裁判所は正当の範囲の引用に関して次のように述べました。
I(イ)著作権法三〇条一項第二は、すでに発行された他人の著作物を正当の範囲内において自由に自己の著作物中に節録引用することを容認しているが、ここにいう引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいうと解するのが相当である。

(ロ)上記引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならないというべきである。

A次に裁判所は、本件事例に関して次のように判断しました。
(イ) 本件写真は、遠方に雪をかぶった山々が左右になり、その手前に雪におおわれた広い下り斜面が開けている山岳の風景及び右側の雪の斜面をあたかもスノータイヤの痕跡のようなシュプールを描いて滑降して来た六名のスキーヤーを俯瞰するような位置で撮影した画像で構成された点に特徴があると認められるカラーの写真である。

(ロ)本件モンタージュ写真は、その左側のスキーヤーのいない風景部分の一部を省いたものの右上側で右シュプールの起点にあたる雪の斜面上縁に巨大なスノータイヤの写真を右斜面の背後に連なる山々の一部を隠しタイヤの上部が画面の外にはみ出すように重ね、これを白黒の写真に複写して作成した合成写真である。

(ハ)本件モンタージュ写真は、カラーの本件写真の一部を切除し、これに本件写真にないスノータイヤの写真を合成し、これを白黒の写真とした点において、本件写真に改変を加えて利用し作成されたものであるということができる。

(ニ)本件写真の本質的な特徴を形成する雪の斜面を前記のようなシュプールを描いて滑降して来た六名のスキーヤーの部分及び山岳風景部分中、なおその特徴をとどめるに足りる部分からなるものであるから、本件写真における表現形式上の本質的な特徴は、本件写真部分自体によつてもこれを感得することができるものである。

(ホ)本件モンタージュ写真は、これを一瞥しただけで本件写真部分にスノータイヤの写真を付加することにより作成されたものであることを看取しうるものであるから、前記のようにシュプールを右タイヤの痕跡に見立て、シュプールの起点にあたる部分に巨大なスノータイヤ一個を配することによつて本件写真部分とタイヤとが相合して非現実的な世界を表現し、現実的な世界を表現する本件写真とは別個の思想、感情を表現するに至つているものであると見るとしても、なお本件モンタージュ写真から本件写真における本質的な特徴自体を直接感得することは十分できるものである。

(ヘ)自己の著作物を創作するにあたり、他人の著作物を素材として利用することは勿論許されないことではないが、右他人の許諾なくして利用をすることが許されるのは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴をそれ自体として直接感得させないような態様においてこれを利用する場合に限られるのであり、したがつて、甲の同意がない限り、本件モンタージュ写真の作成にあたりなされた本件写真の前記改変利用をもつて正当とすることはできない


 [コメント]
 他人の著作物を引用して自己の著作物を創作する場合に、他人の表現上の特徴を直接感得できる限り、他人の許諾なく利用することができない、という論法は、特許第72の他人の特許発明の利用の利用とよく似ています。特許法でも、自己の特許発明が、その特許出願の日前の他人の特許出願等に付与された特許発明等を利用するものであるときには、他人の同意を得なければ実施できないものとされます。特許法では、特許出願に係る発明を特定するために全ての事項を記載すべきであるとされ、これは、発明の要旨(発明の本質的部分)と言われることがあります。しかしながら、著作権法にいう本質な特徴は、表現形式上の本質であり、それ故に直接感得されるものに限られます。


 [特記事項]
 
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