[事件の概要] |
@原告は、 ウィール(タイヤ、車輪、タービンロータなどの回転要素)の非バランス性によって生ずる振動を検知する装置(ウィールバランサ)の発明について米国に特許出願をして特許を得ました。その装置の構成は次の通りです。 a.剛的に固定されたベース構造13と、 b.測定対象10を収納する手段を含むとともに測定方向Mが規定されている測定対象保持構造14と、 c.両構造を連結するとともに複数の支持ロッド部材15を有し、これら支持ロッド部材は測定方向に屈曲自在(yieldable)で測定方向に直交する面内で硬い平行四辺形のリンケージを形成する支持手段15と、を具備し、 d.測定方向への支持構造14の振動を抑制するように設け、 e.それら保持構造14とベース構造13と支持構造15とを一体で継ぎ目のない連続した単一のピースとして形成したことを特徴とする、振動測定装置。 A本発明のように一体で継ぎ目のない連続した一体のピースで形成されたウィールバランサを、ハードベアリング型ウィールバランサと、他方、複数のピースをボルト連結したウィールバランサをソフトベアリング型ウィールバランサと呼びます。 B被告は、長らくソフトベアリング型ウィールバランサを米国内で製造していましたが、それをハードベアリング型ウィールバランサに切り替えました。 C被告は、複数の脚部とクロスピースとを凹凸の係合面(notch-and-tooth engaging faces)で相互にボルト連結された既存の支持構造に言及して、本発明はそれらを一体化したに過ぎないので、当業者にとって自明であり、進歩性がないと反論しました。 |
[裁判所の判断] |
@裁判所は、進歩性の判断に際して先行技術に対する本件発明の相違点(継ぎ目のない一体の支持構造)に関して次のように評価しました。 「ハードベアリング型のバランサは古くから知られていたが、商業的には成功していなかった。それは制動・共鳴のメカニズムが必要であるという先行技術の理解に起因する。課題を解決する手段が“継ぎ目のない一体の支持構造”であることは、発明者が行った貢献を何ら減ずるものではない。(中略)被告がソフトベアリング型のバランサからハードベアリング型へ製品モデルをシフトした事実は、本発明の価値を裏付ける証拠となる。」 Aそして裁判所は、被告の反論に関して次のように判断しました。 ア.「争いのない証拠によれば、凹凸のデザインの脚部は、広いリーフ状のスプリングであると認められる。凹凸のデザインは被告が主張するような制動を省くためのものではなく、制動を導入するためのものであると認められる。」 イ.「本発明は単に従来技術でボルト連結された複数のピースを一体成形したに過ぎないという主張に関して、被告は、(進歩性の)問いかけの焦点を、先行技術との構造的な相違点に限定し、相違点単独では自明であるとしている。しかし発明は全体として考慮されるべきである。非自明の相違点に対する強調は一つの問いかけに過ぎず、進歩性の判断の本質ではない。Graham v. John Deere Co. 問いかけに対して着目すべきなのは、発明者が制動の必要性を省いたことである。このアイディアは、技術分野の先行技術の理解及び予測と反対であるので、当該分野の当業者にとって自明ではない。383 U.S. 39[U.S. v Adams]」 |
[コメント] |
本判例の「発明は全体として考慮されなければならない。」は米国特許審査マニュアル(US MEPE)の中でも特に重要な指針です。確かに複数ピースをボルト連結するか或いは一体成形するかということは、表面的にみれば設計変更の範囲でありますが、それにより測定方向に硬いという特別の作用を生じ、それが技術常識とは反対の着想であるのであるのですから、発明全体から見て進歩性を肯定するのが妥当であります。平17(行ケ)10490号の「紙葉類識別装置の光学検出部」の例とも共通するものがあると考えます。 |
[特記事項] |
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