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判例紹介
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●381 F.3d1320 (In re Bigio)


機能及び構造の参酌/発明の試みの範囲/進歩性

 [事件の概要]
@本件特許出願の経緯

 甲は、ヘアブラシの発明について米国特許出願をしました(09/451,747)。当該特許出願は、3件の引用例(歯ブラシに関するもの)に基づいて進歩性を否定されて拒絶査定となり、審判部が拒絶査定を維持する決定をしたために、甲は決定の取り消しを求めて本件訴訟を提起しました。なお本件では、審判部の決定が維持されたため、本件特許出願の図面データは、当該特許出願の継続出願の特許公報から採取しました。

A本件特許出願に係る発明の構成は次の通りです。

(イ)中心軸を共通するハンドル部13及びブラシ植毛用基部14からなる長尺部材を具備し、

(ロ)上記基部は、中央がくびれた形状(hourglass)を持ち、かつ基部のコアの長手方向に亘って、緩やかに弯曲する小径の中央部16と、大径の端部18、20とを有しており、

(ハ)上記基部には複数のヘアブラシ毛25が植毛されており、

(ニ)これらヘアブラシ毛は小さな毛束に分割されており、これら毛束を、上記基部の軸方向に配列するとともに放射方向に分配しており、

(ホ)上述の各毛束は、軸方向に互いに離れているとともに、ヘアブラシも中央がくびれた形状となるようにヘアブラシ毛が放射方向へ延びていることを特徴とする、ヘアブラシ。

本件発明 
  


引用例1




B本件特許出願の明細書の記載

 明細書中には、「市場には、ブラシ毛とヘアの根元との間の接触面積を増大することで解剖学的に正しいヘアブラシ、髪のボリュームを増加することができるヘアブラシを提案することに関するニーズがある。…本発明の目的は、解剖学的に正しいヘアブラシを提供することである。」という記載があります。

C本件特許出願の先行技術

 乙(米国特許商標庁)は、第1引用例(英国特許第17666号)に第2引用例又は第3引用例を適用することで本件特許出願に係る発明の構成に到達することが当業者にとって容易と判断しました。第1引用例は、様々な形状のブラシ部を開示しており、そのうちの図6a、図8bには中央がくびれた形状を開示しています。また「歯の外側も内側もきれいにすることができる。」という発明の主題も開示されています。

D特許出願人の主張

 甲(特許出願人)は、引用例3件を組み合わせることで本件特許出願に係る発明の構成に至ることが容易であるという点については争わず、各引用例は、本件特許出願に係る発明との類似性を欠いているので、引用例として適当でないと反論しました。

 さらに特許出願人は、“発明者の試み”というテストは機能しない、ガイドラインが存在せず、審査官の主観的判断を許すことになるからである、と主張しました。

E本件特許出願に関する審判部の判断

 審判部は、本件特許出願に係る発明が“ハンドル部とブラシ毛植毛用基部とを有する、手で持つタイプのブラシの範囲”に関係すると判断しました。


 [裁判所の判断]
@裁判所は、先行技術の引用例適格性に関して次の審査基準又は先行判例を引用しました。

(イ)技術文献は、特許出願でクレームされた発明と類似性が認められる場合にのみ、進歩性の決定のための従来技術としての資格を有する。

(ロ)技術の類似性の範囲を定めるために、2つの別々のテストがある。第1のテストは、発明の試みの範囲のテストである。これは、発明の課題とは無関係に、先行技術が同じ試みの範囲から来たものであるか否かを判断するのである。第2のテストは、発明者の解決しようとする問題に合理的に関連するかを判断するものである。

Aさらに裁判所は、発明の試みのテストに関して次のように述べました。

(ハ)発明の試みのテストに当たっては、特許出願の状況(circumstances)及び常識(common sense)を考慮すべきである。

(ニ)特許出願の状況とは、特許出願の明細書及びクレームにおいて発明の主題を如何に説明しているかであり、特許出願に係る発明の構造及び機能も含まれる。

(ホ)常識とは、発明者が直面している問題を解決する手段を探すであろう技術分野を決定するときに発揮される常識である(In re Oetiker 977 F.2d 1443)。

Bそして裁判所は、上記の基準を本件特許出願に対して次のようにあてはめました。

(イ)特許出願に係る発明の構成のうち「ヘアブラシ」という用語に関して、当該特許出願の明細書などには何も限定していないので、特許の用語は最広義に解釈すべきというルールが適用され、「ヘアブラシ」は、人間の頭部のヘアだけでなく、人体の頭部以外の箇所或いは人以外の動物に適用できるものも含まれると解釈すべきである。

(ロ)歯ブラシがヘアブラシと構造的に類似するという審判部の判断は是認できる。両者の相違は、大きさ及び素材などに留まると考えられるからである。

(ハ)また引用例1の「歯ブラシ」は、ヘアブラシとしても機能するものと認められる。

(ホ)従って引用例は、本件特許出願に係る発明の試みの範囲にあると解釈される。


 [コメント]
ヘアブラシと歯ブラシとは用語は相違しますが、構造や機能では共通点があります。本件では、発明者の試みの範囲(Field of Endeavor)という概念が物品の用途の範囲を超えて及ぶことを教えています。日本の進歩性審査基準においても、特許出願に係る発明に至る動機付けの一つとして、技術分野の関連性という概念がありますが、この概念は、用途の共通性だけで考えるべきでなく、メカニズムの共通性も考慮して判断すべきものです。例えば煉瓦の製造方法と錠剤の製造方法とが、粉末を圧縮成形するメカニズムとして共通するので同じ技術分野に属するとされた事例があります(→昭和57年(行ケ)第86号)。


 [特記事項]
 
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