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判例紹介
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●599 F.2d 1032 (In re application of Wood:拒絶審決取消訴訟:否決)


進歩性審査基準/特許出願の要件/先行技術/ベンチュリ型装置

 [事件の概要]
@事件の経緯

 本件は、米国特許出願第587,599号のクレーム36〜38(内燃エンジン用の液体燃料及びエアを混合・調整するベンチュリ型装置)に対する米国特許庁の審判部の拒絶審決に対する訴えです(請求否認)。

A特許出願の背景(発明の背景)

 原告であるWoodとEversoleとは、Eversole及びBerrimanに対して付与された米国特許第3,778,038号(引用例1)の改良発明をしました。

 基本の発明と改良発明との共通点は、どちらも可変のベンチュリを含むことです。

 両者の相違点は、ベンチュリを変化させる方法にありました。

 基本の発明では、円錐形のpintle(26a)の上下動によりベンチュリの流れの領域を変化させます。本件特許出願による改良発明では、ベンチュリの流れを形成する壁を動かすことで流れの範囲を変化させます。

 特許出願人は、彼らの発明はpintleタイプの調整機構を含んでおらず、centering(
中心揃え)の問題、或いは真空がpintleを引き込むという問題を生じない点で基本の発明より優れていると主張しました。しかしながら、特許出願人は、2つの装置の性能を比較する証拠を提出しませんでした。

 [引用例1]
図面

B特許出願の対象

 本件特許出願の請求の範囲に記載の発明の内容は次の通りです。
内燃機関へのエア・液体燃料の均一な混合滴子の供給機であって、

 エアの速度を増加させるためにエアの流れを収束させるスロートゾーン(88)を形成する手段と連続された、エア取り入れゾーン(82)を形成する手段と、

 前記スロートゾーンの手前で液体燃料をエアに導入するとともに微細に分配させることで燃料が分割され細かい滴子としてスロートゾーンを流れるエア中に運搬されるように形成された手段と、

 スロートゾーンの範囲を調整可能に変化させ、混合物を供給するためのエンジンの操作要請に対応して当該混合物中の液体燃料の割合をコントロールする調整手段と、

 エアと燃料との混合物の運動エネルギーのうちの相当量を静的な圧力に変換して、スロットゾーンを通るエア及び燃料の混合物の速度が取入れマニホールド条件の広い範囲で音速となるように、液体燃料とスロットゾーンの下流側へ徐々に断面積の拡大する領域のゾーンを形成する手段と、

 ベンチュリ流れの通路を画成する2つの壁から離して一対の対向部材を配置してなり、これら部材が、上記通路に干渉するために相互に略同一の広がりと固定された角度関係とを保つように前記壁によって支えられるように構成された多様なゾーンと、

 を具備しており、

 前記調整手段は、略同一の広がりと固定された角度関係とのいずれをも変えずにベンチュリ流れの通路の流路領域を変化させることができるように構成された、内燃機関へのエア・液体燃料の均一な混合滴子の供給機。

C本件特許出願の発明内容の補足説明

(a)基本発明及び本件特許出願は、いずれもインテーク・マニホールド条件の広い範囲に亘ってベンチュリ・スロートを通過するときのエア・燃料の混合物の速度を音速に保つことにより排気ガスからの汚染を低減できることを教示しています。

(b)発明者によると、超音速はエア・燃料の混合物をより細かい霧にすることに寄与し、従って燃料の利用に寄与し、排気における汚染のレベルを低減します。

zu

D本件特許出願の経緯

(a)原告(特許出願人)は、環境保護庁(Environmental Protection Agency,EPA)によって本件特許出願のクレーム36、37に関して作成された評価を発明の非自明性の証拠として提出しました。

(b)EPAは、特許出願のクレーム36、37によってカバーされる装置を2種類の既成車に装着してテストを行い、そのいずれに関しても1975年のカリフォルニア州の環境基準を満たすことを発見しました。

(c)EPAは、さらにこの発見が重要である理由として、当該装置が燃料の経済性をpenalizingしないこと、酸化触媒などの従来の排出制御技術を使用しないことを挙げました。

(c)米国特許商標庁は、本件特許出願の審判において、独立した4つの理由(当該特許出願の発明を拒絶するべき理由)を示しました。

(イ)3つの理由は、引用例1と、ベンチュリ流れを形成する部材を動かすタイプの従来の可変式キャブレーターとを組み合わせるものでした。

 先行文献のうちの2つは、US.Patent No.868,251(Bollee)及びGerman Patent No.383,848 であり、本件特許出願のクレーム36〜37を拒絶するために使われました。これらは、ベンチュリを形成する2つの対向部材の相対的な動きによりベンチュリ(の容積)を変化させることを教示しています。

 他の先行技術文献は、“可変チョーク・カービュレータ、S.U.カービュレータ”(スポーツ・カー・エンジン、チューニング及び調整)であり、本件特許出願のクレーム36〜37を拒絶するために使われました。この先行技術は、ベンチュリを形成する壁に向かうピストンの進退によりベンチュリ(の容積)を変化させることを提案しています。

 最後の2つの先行技術文献は、米国特許第1,258,153号(Shaw)及び米国特許第2,052,225号(Hartshorn)であり、これらは本件特許出願のクレーム36、38の拒絶に使用されました。これらの先行技術は、ピストン又はプランジャをベンチュリを形成する2つの壁の間を移動し、かつ当接することでベンチュリの容積を変更することを開示しています。

(ロ)本件特許出願に対する4番目の拒絶理由は、(当該発明が)予期可能というものであり、本件特許出願のクレーム36のみに適用されるものです。このクレームに対する審判部の立場は、クレーム36は広すぎて一つの先行技術(Winfield Carburetor)をカバーしているというものです。この技術は、シリンダ・スロットルの回転が可変式ベンチュリとして寄与するものです。

E原告(特許出願人)の訴訟での主張

(a)特許出願人は、訴訟において、自明性に関する拒絶は不適当であると主張しました。その理由は、非類似の技術を結合しているということです。

 すなわち、特許出願人によると、Bollee特許、ドイツ特許、S.U.キャブレータ、Shaw特許、及びHartshorn特許は、計測機能を保持するためにエア及び燃料の混合物の速度が必然的に音速未満に保持されているものです。

 さらに特許出願人は音速未満の可変カービュレータは音速の可変カービュレータと非類似であって比較し得ない旨の文献を提出しました。

 さらにまた特許出願人は、米国特許庁が本件特許出願でクレームされた発明に対する第三者機関(EPA)の肯定的な評価−非自明性に結びつく評価−を適正に評価していないと主張しました。


 [裁判所の判断]
@裁判所は引用例の適格性に関して次のように判断しました。

(a)(特許出願のクレームに記載された発明の)自明性に関する質問を解決するにあたっては、我々(判断者)は、発明者の試みの範囲内(field of inventor’s endeavor)での発明者の全ての先行技術の全部を(引用適格性があるものとして)推認 (presume) することができる。しかしながら、発明者の試みの範囲の外では、我々は、発明者が直面する問題に合理的に関連(reasonably pertinent to the problem)する先行技術しか上述の推認をすることができない(→In re Antle 444 F.2d 444)。複数の非類似の技術(Non-analogous art)の教示の組み合わせに基づく拒絶理由を排除するという、このルールの合理性は、発明者はあらゆる技術のあらゆる開示内容を気づくことは到底できないという認識に基づく。従って、我々は、発明者の試みの範囲及び類似技術での先行技術についての発明者の知識のみを推認することで、発明の創造を取り囲む状況の現実に近づくように試みなければならない。

 従って、(引用例適格性を有しない)非類似の技術の文献であるとの判断は、2段階で行われる。

 第1に、当該文献が発明者の試みの範囲にあるかどうかを決定する。

 第2に、当該文献が発明者の試みの範囲内にないときには、発明者が直面する問題に合理的に関連するものであるかどうかを決定する。

(b)本件において音速未満の速度のベンチュリ型キャブレーターは、明確に発明者の試みの範囲である。そうではない旨の原告の主張は、彼らの特許出願の明細書で行われた陳述と矛盾する。すなわち、当該特許出願の明細書の“発明の背景”の欄において原告(特許出願人)は、“この発明の技術の分野は、内燃機関の技術を含み、より具体的には燃料及びエアを当該内燃機関に導入するシステムを含む。”と記載されている。音速未満の速度のベンチュリ型キャブレーターは、正確に(squarely)に原告が試みた範囲の記述の範囲に入る。

zu

A裁判所は、適格性を有すると認定された引用例に基づいて次のように判断しました。

(a)我々は、発明者の試みの範囲での全ての先行技術に関する発明者の知識の全てを推認することができるから、下記の副引用例を主引用例に組み込むことができるという判断は妥当である。
主引用例:インテーク・マニホールド条件の広い範囲に亘ってベンチュリ・スロートを通る燃料及びエアの混合物のスピードを音速に保つことでオートモービルの排気の汚染レベルを減少することを内容とする、汚染軽減技術(を有する超音速のベンチュリ型キャブレーター)。
副引用例:ベンチュリ型キャブレーターの流れの範囲を調整する選択的メカニズムに関する、音速未満のベンチュリ型キャブレーター。

(b)一方の技術でのエア・燃料の混合物の速度が音速を超え、他方の技術のそれが音速未満であるから、技術者は文献2つの文献を適当に合体(incorporate)することができないという、原告の主張は的外れである。自明性のテストは、一方の文献の特徴的要素を他方の技術に合体させることができるかどうかということを問題にしているのではない。In re Bozek(416 F.2d 1385)、 In re Mapelsden (329 F.2d 321)を参照せよ。従って我々は複数の先行技術の教示内容の組み合わせからクレームされた発明が自明であるかどうかを見るのである。

Bさらに裁判所は第三者機関の評価に関して次のように判断しました。
(a)もちろん、特許出願でクレームされた発明の権限ある当局による評価は、発明の非自明性に関する重要な指標となる。

(b)しかしながら、特許出願人自身が行ったテストに関しては、そうした評価は本件特許出願でクレームされた発明と最も近似する先行技術との間で行われなければ意味がない。In re Merchant(575 F.2d 865,869)及びIn re Holladay(584 F.2d 384,386)を参照されたい。そうでなければ本件特許出願が先行技術に対して優れており、非自明であると結論付ける根拠に欠けるからである。

(c)EPAのテストは、本件特許出願と最も近似する引用例1との間で行われたものではない。

(d)従って、EPAのテストは、一応の自明性(Primer-facie Obviousness)を構成せず、先行技術に比較して予想を超えて優れているとはいえない。
Primer-facie Obviousnessとは

(e)それどころか引用例1はベンチュリスロートにおいてインテーク・マニホールドの広い範囲に亘ってエア・燃料の混合物が音速であることを開示しているから、それもまたオートモービルの排気中の汚染を低減させる効果を予期させるものである。


 [コメント]
@非自明性の非自明性(進歩性)の先行技術の範囲を、発明者の試みの範囲であるか否か→否である場合に発明者が直面する問題に合理的に関連するか否かの2つのステップで判定しようとする試みは米国特許出願の実務では一般的ですが、本件の訴訟ではその手法のうちの第1のステップ(発明者の試みの範囲)が問題となっています。
two step test とは

A特許出願の審査や訴訟において進歩性の有無が判断される段階では、特許出願人・権利者は、発明者の試みの範囲を狭く主張して先行技術の範囲を限定しようとするのが通常ですが、その主張は自らの過去の主張と矛盾してはなりません。特に特許出願をなした時の明細書(クレームを含む)の記載は、発明を理解するために最も信頼に足りる資料です。その明細書の発明の背景の欄に特許出願人自らが記載した“発明の範囲”に“音速未満”という趣旨のことが記載されていないのに、後日、音速未満のベンチュリ型キャブレータが非類似の技術であると主張することは無理である、と裁判所は考えたと思われます。

B判決文で、原告の引用例の非類似性の主張を明細書の記載との“矛盾”(contradict)と強く批判したことから、そうした裁判所の意図が伺えます。

C特許出願人(或いは権利者)の立場としては、音速未満のタイプは想定外ということは決してその場しのぎで言ったことではないのでしょう。エア・燃料の混合物のスロート中での速度を音速以上にすることで燃料の利用効率が向上するということが発明の根底にあるからです。

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Dしかしながら、発明者の課題との関連性がないということは前記のtwo step testのうちの第1のステップの問題であり、燃料の利用効率の向上という課題は“発明者の試みの範囲”とは直接関係がありません。判決文は、非類似技術の引用例適格性を否定する根拠は、“発明者があらゆる技術のあらゆる開示内容を気づくことは到底できない”からであるとしています。

Eそうなると、この問題は、技術者が超音速のベンチュリ型のキャブレーターの燃料の利用効率を向上しようという問題に直面して、音速未満のベンチュリ型のキャブレーターの流れの範囲を調整するという技術に気付くことができないかどうかということに帰着します。そうなると仮に非自明性の主張が明細書に矛盾しなくても、その主張が通ることは難しかったのではないかと思われます。

F原告(特許出願人)は、具体的には、音速未満のキャブレータの技術を超音速のキャブレーターの装置に合体させることができないと主張していました。たしかに音速未満の領域と音速以上の領域とではさまざまな条件が異なり、そのままの技術では適用できないかもしれません。しかしながら、それだけでは技術の組み合わせが自明でないという根拠とはなりません。

Gなお、我国の場合には、進歩性審査基準では、“技術の具体的な適用に伴う設計的変更などは、当業者の通常の創作能力の発揮であり、相違点がこれらの点にのみある場合は、他に進歩性の存在を推認できる根拠がない限り、通常は、その発明は当業者が容易に想到することができたものと考えられる。と判断されます。


 [特記事項]
 
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