[事件の概要] |
@本件の訴えは、米国特許出願第510,723号(米国特許出願第132、672号の継続出願)の請求項60〜64に対する米国特許商標庁の審判部の拒絶審決に対するものである。 A本件特許出願の発明の概要 農作物は農地で或る作業員のグループによってカットされ、拾い上げられ、車両のシートに座った別の作業員のグループによって通気可能な透明プラスチック製の熱シール性フィルムでラップされ、コンベヤーで温風チャンバーを通過させて、フィルムが知縮んで農作物を密閉するようにし、さらに別のコンベヤーでプラットホームに搬入し、ラップされた農作物を出荷用にパックする。請求項63及び請求項62は代表例でそれぞれ本件特許出願中最も広いクレーム及び狭いクレームである。 B本件特許出願の請求項の記載 [請求項63] 相互に間をあけた農作物の列の間の地面を直接走行して農地の農作物を連続的に収穫しラップするための車両であって、 複数の車輪によって支えられるマシーンと、 このマシーンの両側に、上記複数の農作物の列を超えて伸び、かつ後退することが可能に水平方向に配置された翼状のフレーム突起部と、 を具備し、 上記マシーンは、上記農作物の近くに作業員を配置するために配置された農作物ラップ・ステーションと、 このラップ・ステーションに付設され、農作物の鮮度を保つために収穫後直ちにラップするときに農作物の一単位を密に包装することを可能とする、呼吸可能なプラスチック製フィルムの供給部と、 上記マシーンに付設され、密に包装された農作物の単位を連続的に収集し、ラップ・ステーションから搬出するための運搬手段と、 市場に向かう車両の上で運搬手段からケース入りの農作物を受け取ってパッケージングするパッキングステーションとを有することを特徴とする車両。 C本件特許出願の審査段階での拒絶理由 本件特許出願の審査官は、 請求項63〜64は、引用例1(米国特許第2,337,615号:McLaren特許) に基づきかつ引用例2(米国特許第2,865,765号:Allen特許)を参照すると自明である(進歩性欠如)ので特許できない、また、 請求項60〜62を、引用例1(米国特許第2,337,615号:McLaren特許)に基づきかつ引用例2(米国特許第2,865,765号:Allen特許)、引用例3(米国特許第2,906,627号:Payton特許)、引用例4(米国特許第2,987、864号:Miller特許)を参照すると自明である(進歩性欠如)ので特許できない、 と判断して、拒絶査定を出しました。 [引用文献1] D本件特許出願の先行技術 (a)特許文献1は、予めフィルムで包むことなく農作物を枠箱(crate)に直接パックする移動式農作物パッキング用プラントである。 このプラントは、車両の後部を横切って本体の側面から、車道の通行のために折り畳み(collapsed)可能な端部を有する構造物を有する。 この構造物の上には、車外の他の作業員が拾い上げ、切断した農作物をパックする作業員のための3つのプラットフォームを備えている。 それらの木箱は、当該プラットフォームから車両の中央へ述べるT型コンベヤーシステムによって車両前部の冷蔵コンパートメントへ移送される。 (b)引用文献2は、熱シュリンク可能でありかつ呼吸可能なプラスチック製フィルムで収穫物を包み、新鮮な収穫物に含まれる栄養及び有効成分を食べる直前まで維持することを開示する。収穫物は、フィルムによって熱シールされる。このフィルムは、熱水に漬けることにより、収穫物の回りにきつくシュリンクされる。 (後略) |
[裁判所の判断] |
@裁判所は、本件の争点(特許出願の請求項の発明と先行技術との相違点を含む)を次のように整理しました。 (a)引用文献1の装置は、特許出願人が提案する好ましい実施態様と相当に相違しているが、我々は、プラスチックのラッピング・シュリンク(収縮)・箱詰め作業(crating)の位置において、特許出願人のクレームの内容は同文献から読み取ることができるというsolicitor(米国特許商標庁の事務弁護士)の主張に同意する。 →solicitorとは (b)さらに我々は、特許出願人のクレームのうち箱詰め作業の位置以外の要素は別の引用文献に開示されているという米国特許商標庁の意見に同意する。さらに仮にプラスチック・ラッピング技術を引用文献1に適用することが容易であれば、その後の事柄(シュリンク・箱詰め作業の位置)は設計的事項(straightforward matter)であり、それが“一応自明であること”(prima facie obvious)について文献は必要ない、という同庁の意見に同意する。 (c)しかしながら、複数の公知の文献の組み合わせを含む本件における基本的な疑問は、本件特許出願の発明がなされた時点で当業者にとってそれら文献を組み合わせることが容易であったかということである。 A裁判所は訴訟の当事者の主張に関して次のような見解を述べました。 (a)原告(特許出願人)は、それら文献は、特許出願人自身の開示内容を利用する、後知恵(ハインドサイト)によってのみ、組み合わせることが可能であると主張している。 (b)他方、solicitorは、Winslow事件(365 F.2d 1017)の判決を援用した。この判決は、技術の組み合わせが法律的に自明であると状況として、“発明者が自分の職場の壁にhangされた先行技術文献によって囲まれている状況”を挙げている。 (c)しかしながら、法律家の間でよく言われるように、判決理由中の言葉の言い回しは、その言い回しが使われた状況の事実から切り離して考えなければならない。 B裁判所は、特許出願の先行技術の適格性(類似技術)の判断基準に関して次の見解を述べました。 (a)Winslow事件(本件同様特許出願の拒絶審決への訴え・請求棄却)では第2引用例が(Winslowの特許出願と)ほぼ同種の技術(very same art)であった。特許出願人の発明と全ての先行技術文献とが非常に関連した技術(very pertinent art)であったからである。 (b)当該判決中でsolicitorが引用した箇所は、審査官が適用しようとする技術を、当業者が、後知恵や特許出願人の知識に頼らずに選択したか(would have selected)という問題を扱うケースに当てはめるべきでない。 (c)さらに我々は、103条(米国の非自明性の規定)が発明者の試みの範囲(field of inventor’s endeavor)の範囲では全ての知識を発明者の先行技術として推定することを要求するが、発明の試みの範囲の外側では全ての知識を発明者の先行技術として推定しないという点を指摘する。 (d)すなわち、上記の範囲の外では、発明者は、発明者の問題に合理的に関連する他の技術に限って、それを選択しかつ利用する能力を有すると推定するのである。 C裁判所は上記の見解を本件特許出願のケースに次のように当て嵌めました。 (a)主引例である引用文献1は、移動式収穫用プラントを開示しており、これは(本件特許出願と)ほぼ同じ技術(very same art)である。 (b)他方、副引用例である引用文献2は、新鮮な収穫物を保持する方法を開示しており、これは特許出願人の発明の全体的な目的である。 (c)引用文献1は、「(その発明の目的が)通常のパッキングプラントを省略して野外で全てのパッキングを行うことにより農作物の収穫の自由度を向上させる」ことであると開示しており、他方、引用文献2は、「この発明のステップは、農地や果樹園の外で収穫作業に引き続いて素早く連続して(in rapid succession)実施するべきである。」と開示している。 (d)まとめると、これら2つの陳述は、少なくとも2つの文献を結び付けることを示唆していると見るべきである。 →示唆とは (後略) D裁判所は裁判上での原告(特許出願人)の反論に関して次のように評価しました。 (a)上述の理由から、米国特許商標庁はprima facie obviousness(自明性の一応の確からしさ)に関してゆるぎない主張を行い、証明責任を果たしたように見える。 (b)これに対して、特許出願人の発明に関する3つの新聞記事及び1つの雑誌記事が記録として存在するが、これらは、全て報道的な性質のもので、発明を評価するというよりは、特許出願人の装置に関するクレームを繰り返しているに過ぎない。 (c)またそれらに記事のことはappellant’s brief (陳述趣旨書)に記載されてもいない。 (d)appellant’s briefには、特許出願人の装置が従来のモービル・パッキング・プラントにとって代わった(supplanted)旨の曖昧で裏付けのない主張−単に特許出願人の推定であると我々が理解する主張−が書いてあるに過ぎない。 (e)特許出願人の主張の殆どは、自らの装置が引用文献1の装置に比べて優れていること、或いは別の場所でのパッキングに比べて収穫場所でのパッキングが優れていることを述べるに留まり、特許出願人のものが第1に評価されるべきものであることを示していない。 (f)従って特許出願人は、米国特許庁が提案した複数の先行技術を特定の方法で組み合わせることが発明時点で当業者にとって自明ではないということに関して説得力のある証拠を提示していない。 (g)従って審判部の決定は肯定される。 |
[コメント] |
@日本では発明に至る動機付けとして、技術分野の関連性・課題の共通性・引用発明の内容中の示唆が別々のものとして挙げられますが(進歩性審査基準)、米国特許出願の実務では相互に密接に関わり合いがあるようです。 Aすなわち、発明者の試みの範囲と呼ばれる概念(→技術分野の関連性)の範囲内では全ての先行技術は引用文献となるが、その範囲の外側では発明者が直面する問題(→課題の共通性)に合理的に関連する技術のみが引用文献となり、具体例として本事例の場合には主引例の目的の一つ(収穫物のパッキングを野外で行うこと)を実現するための手掛かり(収穫物の処置を素早く連続して行うこと)があれば、それは引用例同士を組み合わせることを示唆していると評価されるという具合です。 但し、ここでの記号“→”は日米の判断基準中の類似の要素を対応つけただけで両者が同じ概念ということではありません。 |
[特記事項] |
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