[事件の概要] |
@本件特許出願の経緯 本件は、精留コラムに関する米国特許出願第619,110のクレーム1,7,8,14,36〜39、45が拒絶され、審判部も審査官の拒絶を支持する決定をしたため、特許出願人がその決定の取り消しを求めて提訴したものです。 A本件特許出願の請求の範囲 特許出願人によってクレームされた発明は次の通りです。 〔クレーム1〕 液体の流れを一定の体積比を有する複数の少量流れに分ける分配器(distributor)と、 それぞれの板が前記少量流れの数に対応した複数のバブルウェルを有し、各バブルウェルが前記板の中心部から周辺部へ直線的に延び、前記板の象限(quadrant)毎に当該象限内で小さな精留エリアを形成する少なくとも2本のバブルウェルが配置されるように構成された精留板の連続体と、 前記少量流れを一つのバブルウェルを介して伝導し、前記連続体の精留板の上でだけ液体が逆向きの蒸気流れと接触するように構成された伝導手段と、 を具備し、前記板同士の間隔は、上方へ流れる蒸気との混合を可能とする程度のものとしたことを特徴とする、液体精留コラム。 B本件特許出願の発明の概要 裁判所は、本件特許出願の開示内容に関して次のように認定しました。 (イ)特許出願人は、上部分配セクションと中間精留セクションと下部再沸騰セクションとを含む精留コラムを開示している。 (ロ)再沸騰セクションは、従来通りのものであり、改めて説明を要しない。 (ハ)分配セクションは、精留するべき液体を受け取ると共に複数の孔を介してトレーに供給する供給ウェルを有する。トレーは、放射方向のパーティションにより複数の分割セクションに分割される。 (ニ)精留セクションは、複数の水平パーティションを、その一つの上に別の一つをという如く配置しており、各水平パーティションの間には、バブルウェル(bubbling well)が含まれる。各水平パーティションのバブルウェルは、垂直方向に対応する位置にある。バブルウェルの具体的な構成は(進歩性の議論に)関係がないが、蒸気がバブルウェル中の液体を通過して泡になるように構成されていることに留意するべきである。 (ホ)縦方向の一連のバブルウェルは、一つの分割セクションからの液体が供給され、この液体が上側のバブルウェルから下側のバブルウェルへ流れるように構成されている。 (へ)本件特許出願では、前記構成は船舶での使用に特に適している旨が述べられている。船舶では装置の縦向きのポジショニングが当該船舶の動きによりトラブルを生ずることがあるからである。 C本件特許出願の先行技術 (a)本件特許出願の拒絶の理由として米国特許商標庁の審判部が挙げた先行技術は次の通りです。 (イ)米国特許第1,605,263号(引用例1) (ロ)米国特許第2,051,545号(引用例2) (ハ)米国特許第2,394,133号(引用例3) (b)引用例の内容は次の通りです。 (イ)引用例1は、ガスと液体とを接触させる装置を開示する。この装置は、ガスが液体へ導入され、そして通過して液中に泡を生ずるように形成された複数の樋(trough)を有する。 (ロ)引用例2は、ガス及び液体の接触機械を開示している。この機械は、上部分配ヘッドと、垂直方向に離した複数の水平板を含む精留装置とを含む。 D本件特許出願に対する拒絶理由 (a)引用例2は、米国特許商標庁が特許出願を拒絶するための主引用例として用いたものである。 各水平板に設けられた複数の装置は、具体的には(specifically)特許出願人のバブルウェルに対応していないけれども、ガスと液体との密な接触を起こさせるというほぼおなじ機能(generally same function)を発揮する。 これらの装置は、板に対して特許出願人のバブルウェルとほぼ同様の態様で(in the same general manner)位置されている。 さらにこれらの装置は、分配ヘッドにより分流された液体を受け取り、特許出願人のバブルウェルと同様に垂直方向へ順次流れていくように構成されている。 (b)本件特許出願を拒絶した審査官及び審判部の意見は、引用例1の樋が特許出願人のバブルウェルに対応するというものである。 (c)従って、本件特許出願のクレーム1、14、36、37、39、45は、引用例2の発明のうちのガス及び液体接触ユニットを引用例1のバブルウェル対応部分と置き換えることは、ら発明的特徴を欠く(no invention)ものである。(※1)。 (※1)…現在の“進歩性なし”と略同意義です。 〔引用例1〕 〔引用例2〕 E前記拒絶理由に対する原告(特許出願人)の反論 (a)引用例1の樋は相互に連結されており(interconnected)、特許出願人のバブルウェルの態様である別個のユニット(separate unit)になっていない(反論1)。 (b)引用例1のウェル(樋)は、物理的に引用例2の発明の対応部分と置換することができない(反論2)。 (c)特許出願人の装置は船舶での使用に適しているが、引用例にはそうした用途に適することの示唆がない(反論3)。 |
[裁判所の判断] |
@裁判所は、前記特許出願人の反論1に対して次の見解を示しました。 (a)特許出願のクレームというものは、合理的にサポートされ得る最も広い解釈が与えられるべきであり、それらのクレームは、実施例に開示されているがクレーム自体に書かれていない限定要件を読み取って特許されてはならない。 187 F.2d 632 In re Cresswell →broadest reasonable interpretationとは (b)当裁判所の意見によれば、本件特許出願のクレーム中のバブルウェルは引用例1に開示されたものと何一つ異なるところがない。従って、この点に関する米国特許商標庁の判断は正しい。 A裁判所は、前記特許出願人の反論2に対して次の見解を示しました。 (a)当裁判所は、特許出願人の議論を丁寧に審理したが、米国特許商標庁の判断は正しいという意見である。 (b)何故ならバブルウェルは古い技術であり、引用例2の対応部分と基本的に同じ機能を奏するものとして知られているので、審判部による置換は単なる均等物の置換となるからである。 (c)特許出願人の反論2にも関わらず、そうした置換(単なる物理的な置き換えでない置換)は可能である。いわゆる当業者は、先行技術の開示をもとにして、創作性を発揮することなく(without invention)クレームされた発明に到達することができる。 104 F.2d 622 In re Ewald 本件では、提案された先行技術の変更は創作性の発揮なく実現できる。 B裁判所は、前記特許出願人の反論3に対して次の見解を示しました。 (a)本件特許出願のクレームは、装置の構成を特定しているに過ぎず、特許出願人が指摘するような用途は特定していない。クレームに規定していない事柄は、特許を付与する根拠とはならない。146 F.2d 290 In re Stattman C以上に述べた理由から、当裁判所は米国特許商標庁の決定を支持する。 |
[コメント] |
@日本の進歩性審査基準では“技術の具体的な変更に伴う設計変更は当業者の通常の創作能力の発揮である”旨が述べられていますが、その意味を考えるために、本件事例を紹介しました。 A引用例1のバブルウェル相当部分は、水平パーティションから垂下する一対の脚部に通液孔を設けるとともに、その脚部の下端を、断面凹字形の長尺部材の底板に連結してなる特殊な形状を有しており、確かにこの構造をそのまま引用例2の装置に組み込むことはできないかも知れません。 Bしかしながら、バブルウェル自体は古い公知の技術であり、その機能は広く知られているので、その機能を損なわないように特殊な樋を単純なウェル構造に改変して別の引用例に適用することは容易であると考えられます。 |
[特記事項] |
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