[事件の概要] |
@事件の経緯 原告は、平成9年4月9日に発明の名称を「イヤリング」とする特許出願をし、 平成13年8月31日付けで進歩性の欠如を理由とする拒絶査定を受けたので、 同年10月11日、査定不服審判を席fに対する審判を請求するとともに(不服2001−18172号事件)、明細書を補正(以下「本件補正」という。)したが、。 平成16年1月6日、特許が本件補正を却下するとともに「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をしたため、その審決の取り消しを求めて本件訴訟に至りました。 A本件特許出願の請求の範囲 (a)補正前 「一方の主装飾体と他方の挟着部材とに一対の取付脚部と取付基部とを形成してこれらを軸着し、この部位を加締めてなるイヤリングであって、一対の取付脚部と取付基部との間にこれら部材より硬質部材のワッシャを介して加締めたことを特徴とするイヤリング。」 (b)補正後 「一方の主装飾体と他方の副装飾体とに一対の取付脚部と取付基部とを形成してこれらを軸着し、この部位を加締めてなるイヤリングであって、一対の取付脚部と取付基部の相対する位置に貫通孔を形成し、両者の間にこれらの部材よりも硬質のワッシャを介して前記貫通孔にピンを挿入し、当該部位を加締めて耳たぶに対する挟着力を付与したことを特徴とするイヤリング。」 B特許出願人の発明の概要 〔発明の目的〕 従来のイヤリングにあって、板バネやコイルバネの弾性を利用して耳たぶに挟みつけるクリップ式のイヤリングが知られているが、耳たぶに対する挟着力の調整が難しく、長い時間耳たぶに装着していると耳たぶが痛くなってしまうという欠点があった。 この耳たぶへの挟着力を調整するものとして、耳たぶを挟着する挟着部材(装飾体)を回転軸の回転時の摩擦抵抗の程度によって挟着力を調整しようとするものがある。これは一方の挟着部材側からの一対の取付脚部と、他方の挟着部材側からの基部とを加締めて軸着し、挟着部材が耳たぶを挟む際にはその両者の接触摩擦抵抗を増そうとするものであり、耳たぶへ大きな挟着力を与えないですむという特徴がある。 しかるにこれにも大きな欠点ががあり、長い期間にわたってこの挟着部材の開閉が繰り返されると加締められた取付脚部と他方の挟着部材の基部の摩耗が発生し、全く使いものにならなくなるという欠点がある。 本発明は以上の欠点を改良せんとするものであり、長い間の繰り返しの開閉にも挟着力の低下をもたらすことのないイヤリングを提供するものである。 〔発明の効果〕 本発明は取付脚部及び基部よりも硬度の高いワッシャを挟み込んだものであるため、耳たぶへの挟着力が長期間しかも一定に保持されることとなる。 [本願発明] [引用文献1] C本件特許出願の先行技術は、次の通りです。 (a)実開平2−147023号公報(引用文献1) (イ)この文献には次の記載があります。 ・「イヤリング取付板の後部に止板を回動開閉自在に噛合軸止めし、前記噛合軸止め部の近傍に前記止板を広狭数段において切替掛止するストッパーを設けたことを特徴とするイヤリングのイヤクリップ。」(実用新案登録請求の範囲) ・「第4図は第2実施例で、前例とは逆に取付板1aの中間下を二股にし、止板3aの基部取付板1aのを二股間に挟入して軸5a止め連結したのである。」(明細書3頁6〜8行) (ロ)また審決によれば、“更に軸止め前の第2図及び第4図と、軸止め後の第3図を並べて見比べると、第3図の軸5の端部は加締められていることが見て取れる。また、第4図にはイヤリング取付板の一対の二股と止板の後端部の相対する位置に軸孔を形成したものが記載されている。”と認定されています。 参考 “かしめる”…接合部分にはめこまれた爪や金具を工具で打ったり締めたりして接合部を固くとめる。 (b)特開平2−201418号公報(引用文献2) この工法には次の記載があります。 ・「[作用] ファインセラミック製ワッシャはモース硬度が9でダイヤモンドにつぐ硬さを持ち、耐摩耗性が極めてたかく、通常の眼鏡蝶番に使用した場合はほとんど摩耗しない。(中略) 長期間の使用でもがたつきを生じない。」(公報2頁左欄5ないし13行) ・「蝶番は第2図に示すように2個の部品に分かれ、接触部にワッシャ1が嵌合される。」(公報2頁左欄17、18行) D本件特許出願に対する審決の内容は、次の通りです。 (a)本件補正は、特許法126条4項の規定に違反するものであり、特許法53条1項の規定により却下されるべきものであり、また、本願発明は、特許法29条2項(進歩性)の規定により特許を受けることができない。具体的には次の通りです。 (b)上記記載事項によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「イヤリング取付板の中間下に二股に分かれた一対の二股と、止板の後端部とを軸着し、この部位を加締めてなるイヤリングであって、 イヤリング取付板の一対の二股と止板の後端部の相対する位置に軸孔を形成し、これら軸孔に軸を通して加締めたイヤリング。」 (c)特許出願人の発明と引用発明1との相違点は次の通りである。 [相違点1]本願補正発明の「軸着」は、一対の取付脚部及び取付基部よりも「硬質のワッシャ」を介して行っているのに対して、引用発明1は、ワッシャを介さずに一対の取付脚部と取付基部を直接軸止めしている点。 [相違点2]本願補正発明では、「耳たぶに対する挟着力を付与した」ものであるのに対して、引用発明1にはかかる作用は不明である点。 (d)相違点1についての判断 本願補正発明における「ワッシャ」の使用については、本願明細書の【0004】、【0005】欄の【発明が解決しようとする課題】に、一対の取付脚部及び取付基部の長い間の開閉の繰り返しによる摩耗の発生を解決する旨記載があり、一対の取付脚部及び取付基部は「開閉部材」として捉えることができるので、言い換えると当該相違点1は、開閉部材の長い間の開閉の繰り返しで発生する摩耗を抑える手段として、開閉部材よりも硬質のワッシャを開閉部材間に挟んで軸着する技術思想の有無に係るものと認められる。 ところが、かかる技術思想は、製品の分野が本願補正発明のものと異なるものの、引用文献2に、がたつき防止を目的とした硬質ワッシャの使用について同様の記載がある。 そこで、かかる異製品分野間での技術の転用の容易想到性について検討する。 当該技術思想は、軸止めされた開閉機構に関するものであり、本願補正発明のイヤリング、引用文献2のめがねのみならず、多種多様な製品分野に広範に用いられている機構であることは当業者ならずとも明らかであり、また、当該開閉機構に用いられた「ワッシャ」もまた、何ら特別な部材でなく日常見受けられる慣用部材であることを考量すると、単に製品分野が異なること自体は、かかる技術の転用を何ら妨げるものではないと認められる。 したがって、引用発明1の軸着に係る構成として、引用文献2に記載の硬質のワッシャを採用した技術を転用し、本願補正発明の構成と同様の構成をなすことは当業者が容易に想到し得る事項である。 なお、この点について、出願人が平成14年1月10日付手続補正書(【請求の理由】)にて、「眼鏡のつるは抵抗なく開閉するものであることはそれこそ周知であり、・・・ワッシャを部材に圧接するという技術思想は全くありませんし、・・・例え眼鏡の部材よりも硬質のワッシャが用いられているとしても、本発明の技術とは全く似て非なるものであります。」旨主張するとおり、引用文献2に記載の眼鏡の開閉機構には途中で開閉を止めてその状態を保持することはないので、「イヤリング」の「保持力」なる効果については一見技術の転用が見いだせないとの観を抱く余地もある。 しかしながら本願補正発明における効果について考えてみると、 (ア)「クリップ式イヤリング」自体、本件特許出願前に周知のイヤリングであり、開閉状態の保持により装飾体を耳に取り付ける本来の機構自体が当業者に周知であり、開閉機構の摩耗が直ちに保持力の低下に繋がることもまた当業者に知られていたこと、及び、 (イ)摩耗の抑制と保持力の持続は、クリップ式イヤリングとして使用する限り一体不可分の効果であり、たとえ摩耗の抑制を狙った技術の転用であったとしても、イヤリングの保持力の持続の効果は前記一体不可分性の結果、当然の効果として十分に予期できること、 以上のことにより、たとえ使用態様の異なる製品間であっても、共通の開閉機構を各々有する場合、技術の転用の結果付随する別種の効果の発生が当然に予期できるのであれば、異製品間といえども技術の転用は容易であるとするのが相当である。 (e)相違点2についての判断 本願補正発明の「耳たぶに対する挟着力を付与した」については、何らかの構成に関する記載というより、むしろ作用・効果に関する記載であるといわざるを得ず、また、上述の[相違点1]についてのなお書きにて詳述したように、引用発明1と引用文献2に記載されたものの結合によって得られる構成体を従来周知のクリップ式イヤリングとして用いる限り「耳たぶに対する挟着力」を本来効果として内在するものであると認められるため、当該相違点2についても、引用発明1及び引用文献2に記載されたものに基づいて当業者が容易に想到し得たものと認められる。 したがって、本願補正発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 E特許出願人が主張する取消事由の要旨は次の通りです。 (a)取消事由1(引用発明1の認定の誤り、本願補正発明との一致点の認定の誤りと相違点の看過) (ア)審決は、引用発明1が、「イヤリング取付板の中間下に二股に分かれた一対の二股と、止板の後端部とを軸着し、この部位を加締めてなるイヤリングであって、イヤリング取付板の一対の二股と止板の後端部の相対する位置に軸孔を形成し、これら軸孔に軸を通して加締めたイヤリング。」であると認定し、 本願補正発明と引用発明1との一致点を、「一方の主装飾体と他方の副装飾体とに一対の取付脚部と取付基部とを形成してこれらを軸着し、この部位を加締めてなるイヤリングであって、一対の取付脚部と取付基部の相対する位置に貫通孔を形成し、前記貫通孔にピンを挿入し、当該部位を加締めたイヤリング。」と認定した。 (イ)しかし、引用文献1の第3図によれば、引用発明1の止板3とイヤリング取付板1との間には隙間があり、耳たぶに対する挟着力はストッパー(6、7)の噛合のみによって付与されていることが明らかであって、引用発明1は、軸5を加締めて止板3とイヤリング取付板1とを密着させたものではなく、単に軸着させただけのものにすぎないから、引用発明1は、「イヤリング取付板の中間下に二股に分かれた一対の二股と、止板の後端部とを軸着してなるイヤリングであって、イヤリング取付板の一対の二股と止板の後端部の相対する位置に軸孔を形成し、これら軸孔に軸を通して組み立て、かつ、軸近傍に切替掛止ストッパーを設けたイヤリング。」であると認定するのが相当である。そうすると、本願補正発明では、軸部を加締めているのに対し、引用発明1では、軸部を加締めずに単に軸止めしている点が相違する。 (ウ)したがって、審決は、引用発明1の認定を誤り、その結果、本願補正発明と引用発明1との一致点の認定を誤って、相違点を看過したものである。 (b)取消事由2(相違点1の判断の誤り) (ア) 審決は、「引用発明1の軸着に係る構成として、引用文献2に記載の硬質のワッシャを採用した技術を転用し、本願補正発明の構成と同様の構成をなすことは当業者が容易に想到し得る事項である。」と判断した。 (イ)本願補正発明の開閉機構は、任意の位置で開閉を保持することができるという特徴があり、また、これにワッシャを介在させた目的は、取付脚部と取付基部(いわゆる開閉部材)の摩耗を防ぎ、加締めによって得られた保持力を維持するためである。これに対し、引用発明2における開閉機構は、任意の位置で開閉を保持することができるというものではなく、完全に開くか完全に閉じるかをスムースに行おうとするものであり、しかも、引用発明2は、従来の眼鏡ではワッシャ自体が摩耗することから、その改善策を提供しようとするものであって、開閉機構自体の摩耗については何ら考慮していない。 本願補正発明と引用発明2は、単に製品の分野が異なるだけではなく、上記のように、要求される機能も大きく異なるから、引用発明1の軸着に係る構成として、引用文献2に記載の硬質のワッシャを採用した技術を転用し、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到することができない。 |
[裁判所の判断] |
@裁判所は、取消事由1(引用発明1の認定の誤り、本願補正発明との一致点の認定の誤りと相違点の看過)について次のように判断しました。 (a) 引用発明1は、イヤリング取付板の中間下に二股に分かれた一対の二股と、止板の後端部とを軸着した部位を加締めたものではないから、本願補正発明と引用発明1は、本願補正発明では、軸部を加締めているのに対し、引用発明1では、軸部を加締めずに単に軸止めしているものであることは、本願明細書及び引用文献1から明らかであるが、審決はこの構成の相違について明示して認定していない。 (b)しかしながら、審決は、原告の平成14年1月10日付け手続補正書における主張に対して判断するに際し、引用文献2に記載の眼鏡の開閉機構には途中で開閉を止めてその状態を保持することはないので、「イヤリング」の「保持力」なる効果については一見技術の転用が見いだせないとの観を抱く余地もあると付言した上で、イヤリングの保持力なる効果について触れ、本願補正発明における摩耗の抑制と保持力の持続は、クリップ式イヤリングとして使用する限り一体不可分の効果であり、たとえ摩耗の抑制を狙った技術の転用であったとしても、イヤリングの保持力の持続の効果は前記一体不可分性の結果、当然の効果として十分に予期できる、と認定判断している。ここにおいては、加締めているか否かについての上記相違のあることを当然の前提としつつ、引用文献1の軸着に係る構成として、引用文献2に記載の硬質のワッシャを採用した技術を転用することの容易想到性判断において、イヤリングの保持力の持続のために、本願補正発明における「加締め」という構成を採用することは当然設計事項に含まれるものであることを黙示的に認定判断しているものと理解すべきである。審決は、一致点の認定中には「加締めたイヤリング」において引用発明1と一致するとしているが、審決が真意とするところは、以上説示のところにあるというべきである。 (c)なお、乙1(実公昭59−29555号公報)及び乙2(実願昭56−130642号(実開昭58−36815号)のマイクロフィルム)によれば、一対の取付脚部と取付基部とを軸着してなるイヤリング(クリップ式イヤリング)において、軸部を加締める構成は、本願補正発明の出願時に周知であったと認められる。 そして、本願補正発明が、一対の取付脚部と取付基部とを軸着してなるイヤリング(クリップ式イヤリング)において、軸部を加締める構成が周知であることを前提に、 「長い期間にわたってこの挟着部材の開閉が繰り返されると加締められた取付脚部と他方の挟着部材の基部の摩耗が発生し、全く使いものにならなくなるという欠点」を改良することを目的として、 一対の取付脚部と取付基部との間にこれらの材質よりも硬度の高い材質のワッシャを介在させて軸着し、この部位を加締めるという構成を採用したものであること、すなわち、本願補正発明の技術的課題は、加締められた取付脚部と他方の挟着部材の基部の摩耗を避けることにあることは、本願明細書の次の記載などから明らかである。 「本発明のイヤリングはこの従来のイヤリングの欠点を改良するものであって、取付脚部と基部との間にこれら材質よりも硬度の高い材質であるワッシャを介在させて軸着してこの部位を加締めたものであって、意外にも軟らかいもの同士の接触をさけることによって摩耗や変形が避けられたものであり、イヤリングとして長い期間の使用に耐えられるものとなったものである。」(段落0009) そうすると、本願明細書においても、「加締め」の構成が周知のものであることを前提にしているし、その構成についての容易想到性の判断も、審決の上記説示において尽くされているというべきである。 (d)以上のとおりであり、審決は、原告主張の構成に関して引用発明1とが相違することを黙示的に前提としつつ、その容易想到性について判断しているものであって、そこに、原告主張の引用発明1の認定の誤り、一致点の認定の誤り、更には相違点の看過はない。取消事由1は理由がない。 A裁判所は、取消事由2(相違点1の判断の誤り)について次のように判断しました。 (a)引用文献2には、 「従来のワッシャは比較的軟質なこともあり、蝶番が硬い材質のときなどは特に摩耗が激しく、使用中に徐々にがたつきがでてくることがあった。」(111頁左欄19行〜右欄2行)、 「ファインセラミック製ワッシャはモース硬度が9でダイヤモンドにつぐ硬さを持ち、耐摩耗性が極めてたかく、通常の眼鏡蝶番に使用した場合はほとんど摩耗しない。・・・チタン、チタン合金との相性は特に良好であり、長期間の使用でもがたつきを生じない。」(112頁左欄6行ないし13行)、 「蝶番は第2図に示すように2個の部品に分かれ、接触部にワッシャ1が嵌合される。」(112頁左欄17、18行)との記載があり、 この記載によれば、眼鏡の蝶番において、がたつきの防止を目的として、蝶番を構成する2つの部品よりも硬質のワッシャを使用することが示されている。 (b)本願補正発明は、その構成にあるように、一対の取付脚部と取付基部との間にこれらの材質よりも硬度の高い材質のワッシャを介在させて軸着し、この部位を加締めるという構成を採用したものであるところ、本願補正発明の一対の取付脚部と取付基部は、引用文献2の蝶番を構成する2つの部品と同様に、開閉部材として理解することができる。そして、本願補正発明のイヤリングと引用発明2の眼鏡とは製品の分野が異なるものの、開閉部材を軸止めした機構は、多種多様な製品分野に広範に用いられており、開閉機構に用いられるワッシャも、また、何ら特別な部材でなく、日常見受けられる慣用部材であるから、そうであれば、ワッシャを介さずに一対の取付脚部と取付基部を直接軸止めした引用発明1の軸着に係る構成として、引用文献2に記載の硬質のワッシャを採用した技術を転用し、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到することができる。 (c)原告は、本願補正発明の開閉機構は、任意の位置で開閉を保持することができるという特徴があり、また、これにワッシャを介在させた目的は、取付脚部と取付基部(いわゆる開閉部材)の摩耗を防ぎ、加締めによって得られた保持力を維持するためであるのに対し、引用発明2における開閉機構は、その開閉が任意の位置で保持できるものではなく、しかも、引用発明2は、開閉機構自体の摩耗について何ら考慮されていないのであって、本願補正発明と引用発明2は、単に製品の分野が異なるだけではなく、要求される機能も大きく異なるから、引用発明1の軸着に係る構成として、引用文献2に記載の硬質のワッシャを採用した技術を転用し、本願補正発明の構成と同様の構成とすることは当業者が容易に想到することができないと主張する。 (d)しかし、本願補正発明の明細書には、「・・・この部位を加締めることによって両者を閉じた際に挟着力を付与するものである」(段落【0007】)との記載があるが、任意の位置で開閉を保持することができるという特徴についての記載はない。また、確かに、引用発明2においては、ワッシャの摩耗の防止を課題とするものであるということができるが、上記(1)に判示したように、開閉機構に用いられるワッシャは、何ら特別な部材でなく、日常見受けられる慣用部材であることを併せ考えると、引用文献2に接した当業者であれば、通常、引用発明1の軸着に係る構成として、引用文献2に記載の硬質のワッシャを採用した技術の適用を試みるというべきであって、その際、引用文献2における引用発明2の目的課題の記載に意を用い、通常行われる技術の適用の試みを殊更に回避するとは考え難い。そして、本願補正発明のイヤリングと引用発明2の眼鏡とは製品の分野が異なるものであるとしても、上記@に判示したように、このことは、技術の転用を妨げるものではない。 |
[コメント] |
(a)特許出願人(原告)は、副引用例はワッシャの磨耗防止を図るために硬質のワッシャを採用したものであり、開閉部材の磨耗を防止するものではない、中間的な位置で開閉部材を保持する力を発揮する本願発明の作用効果を奏しない、と主張します。しかしながら、ワッシャ及び開閉部材のどちらが磨耗しても、中間的な位置での開閉部材の保持力を維持することは困難になると考えられますので、その主張にはあまり説得力がありません。 (b)裁判官は、前述のワッシャが「何ら特別な部材でなく、日常見受けられる慣用部材」だから、技術の分野の相違が当該技術を適用することの妨げにならないと指摘しています。 副引用例に開示された技術が慣用技術であっても、例えば副引用例の発明と主引用例の発明との目的が相違しており、副引用例に開示された技術の態様が主引用例の発明の目的に適していない場合には、両者を結び付けることに動機付けがないと判断される可能性があります(→平成17年(行ケ)第10717号)。 (c)本件にそうした事情が見当たらず、ワッシャの技術的効果(ガタツキの防止)は主引用例のイヤリングにも役立つ事柄ですから、両者を結合する動機付けがあると解されます。 |
[特記事項] |
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