[事件の概要] |
[発明の内容] 本件特許のクレーム1〜4のうちでクレーム1及びクレーム4を掲げます。 本件訴訟の対象となったのは、クレーム4ですが、特許出願人がクレーム4を作成した意図を明らかにするために、クレーム1にも言及します。 {クレーム1} ボール・ローリング・ゲームに用いられる要素の組み合わせであって、 実質的に水平なテーブルと、 その表面に存する(thereon)、実質的に垂直なサポートと、 このサポートにより積載され、電気回路のスイッチを構成する一つの導電体を形成するとともに、下向きの延長部分(down-turned extension)を含むコイルスプリングと、 前記スイッチの他の部材であって前記テーブルに積載され(carried)かつ埋め込まれた(embedded)導電フェルールを含み、この導電フェルールが当該導電フェルール内に垂下された前記延長部分と係合(engage)可能に構成されたところの部材と、 を組み合わせてなり、 これら部材及び延長部分は、前記電気回路が開いた状態を維持するために、通常はギャップを存して離間しているが(gapped apart)、テーブルを転がったボールがコイルスプリングに衝突したときに一時的に電気回路が閉じるようにしてなる組み合わせ。 ※フェルール…一般に有頂で筒形の小さい部品(口金・傘の石突きなど)をいう。 {クレーム4} 実質的に水平なテーブルの上をボールが転がるようにしたボール・ローリング・ゲームに用いられる要素の組み合わせであって、前記テーブルに加えて、 当該テーブルの下面に下端を装備させ(carried)、当該テーブルに碇止された実質的なスタンダードと、 その上端が前記テーブルの上面から上方へ相当の長さで延びる、電子回路のためのリードと、 前記スタンダードを囲むコイルスプリングと、 このコイルスプリングを、前記スタンダードの上側から垂下するように(pendantly)、 テーブルの上側で装備するとともに、スタンダードとコイルとを離して、このコイルが前記回路内の導電体として、テーブルを転がるボールとの衝突により弯曲してスタンダードに接するように設けた、コイルスプリング装備手段(means carrying said spring)と 前記回路内の導電手段と の組み合わせであって、前記導電手段は、前記スタンダードから離れた場所でテーブルに埋め込まれ(embedded in)、前記コイルが弯曲したときにコイルの一部と係合することが可能(engageable)としたことを特徴とする、組み合わせ。 [事件の概要] @控訴巡回裁判所の判決同士が抵触するものでない、特許に関する事件においては、Certiorari(サーシオレイライ・移送令状)は、関係するquestion(問題)の性質により許可される。本件の場合には、特許権者の主張を支持する決定に影響する勤労(industry)は、単一の巡回裁判所のみで行われているから、そうした抵触の結果としての訴訟は起こりそうにない。 Aネルソン特許(米国特許番号第2,109,678号)のクレーム4は、弾性を有する(resilient) スイッチ又は回路切断器に関する。 これは、ゲーム用テーブルの上に載置され、このボードの上を自由に転がるボールが衝突した時に一時的に回路が閉じるように構成したものである。 前述のクレーム4は、発明の構成要素として、 ・電導体製のスタンダードと、 ・このスタンダードを囲むコイルスプリングと、 ・このコイルスプリングを、前記スタンダートから離して(spaced from)当該スタンダードの上部から垂下して積載する(carrying pendantly)、積載手段(carrying means)と、 ・前記スタンダードから離した場所で前記テーブル内に埋め込まれた(embedded in)導電手段(conductor means)とを備え、 当該導電手段は、前記コイルスプリングが弯曲したときにコイルスプリングの一部と係合可能(engageable)であり、当接係合により前記回路が閉鎖するように構成された組み合わせ。 [下級審の判断] B先行する裁判において次のことが判示されている。 ・前記クレームに使用されている“埋め込まれた”という表現は、テーブル中にしっかりと(solidly)セットされかつ十分に固定された電導手段をも含む。その電導手段の一部がテーブルの表面から飛び出しているか否かは問題ではない。 ・電導手段についての記載は、{特許出願人により}“テーブルに積載される”から“テーブルに埋め込まれた”へと補正された。補正前の表現では、デーブル内へ打ち込まれた(driven into)ネイルやピンは除外されていなかった。 ・これらの補正は先行技術に基づく米国特許商標庁の拒絶理由に対応するものである。こうした補正をすることにより、特許権者は、保護対象であるコンビネーションを、テーブルに積載されているだけでなく、テーブルに埋め込まれたものに限定した。そしてこの限定により、2つのフレーズの相違点が認識されるとともに強調され、その点が{特許発明と異なる}全ての態様を特許権者が放棄したことを宣言したこととなる。 ・{特許出願人による}補正は、前記相違点に対する権利の放棄として作用する。従って特許権者に対しては、厳しくクレームを解釈しなければならない。 ・その厳しい解釈の結果として特許権者が失ったものは均等論によって回復することができない。 CCertiorari 314 U.S. 702に対するこの裁判では、3つの事件において特許クレームが有効でありかつ侵害されたと認定し侵害行為を禁じた3つの判決(decree)が肯定されたことを見直す。 Mr. Chief Justice Stone が法廷意見(Opinion of Court)を提供した。 →法廷意見(Opinion of Court)とは [係争物の説明] @侵害として申し立てられた6つの装置は、明細書に記載された特定のクレームとは次の点で相違している。 ・導電手段の形態 ・導電手段の支え方 侵害品として申し立てられた装置のうちの2つ、原告の証拠物件(Exhibit)5、7においては、{特許発明の}テーブルにセットされたリング状の導電体に代えて、ネイル又はピンの上端部に近接して、当該上端部を囲むリング体が弾性力を有するコイルスプリングの端部に取り付けられている。前記スプリンングがボールによって叩かれた時に、前記リング体とネイルとがテーブルの上で接触することにより、回路が閉鎖される。 このアレンジメントでは、特許図面に示された導電体のアレンジメントとは対照的(contrast with)である。特許図面のそれでは、テーブル内にリング(リング状導電体)がセットされており、かつコイルスプリングから垂下される足がテーブルの表面付近又はその下で前記リングに接するのである。 一つのケースにおいては、リング状導電体は、テーブルに指示されており、これを補う導電体は、スプリングのワイヤーの端部に取り付けられており、又は当該端部として形成されている。他のケースでは、リング状導電体及びこれを補う導電体の位置関係が逆転している。 証拠物件6、10は、さらに変更箇所を含む。 証拠物件6では、ネイル又はピンは、テーブルに直接打ち込む代わりに、テーブルの表面に載せた(resting on)金属板によって貼付され(affixed)かつ支持されている。コイルスプリングのスダンダードは、前記金属板を貫通してテーブル上にしっかりと支持している。導電体は、金属板の下に開口された孔を通ってワイヤー接続体へ延びている。 証拠物件10では、導電体は金属板に対して絶縁(insulated)され、コイルスプリングスタンダードにしっかりと碇止(anchored)されている。そして次に(in turn)当該スタンダードはテーブルに固定されている。 証拠物件8、9では、絶縁コア又は絶縁スリーブがコイルスタンダードを囲み、かつリング状導電体又は包囲導電体を支持している。この導電体は、回路にワイヤで接続されており、それが変形してコイルに接したときに回路が閉鎖されるように構成している。 証拠物件8では、スリーブは、電気的に金属板に接続されている。この金属板は、当該金属板を貫通するスタンダードによって、テーブルのトップ位置に保持されている。金属いたから延びるワイヤが金属板の下で開口された孔を通過している。 証拠物件9においては、環状導電体がテーブルのトップ位置の上に配置されており、環状導電から延びるワイヤーがテーブルに設けた孔に通過されている。 比較をすると、証拠物件5、7を除く全ての事案において、コイルスプリングに対して相補的(complementary)な導電手段は、テーブルの上に載置された絶縁されておらず、テーブル上に載置された絶縁プレー又はスタンダードによって支持されている。 証拠物件6、10では、導電手段は、金属板の下でテーブルに開口された孔を介して、テーブルの上に配置されている。 [当事者の主張] @上訴人(被告)は、次のように主張していた。 ・相手方(原告)は、特許侵害を主張するにあたって、米国特許商標庁におけるファイルラッパー・レコード{特許出願の記録}によって、これと矛盾する行為を禁じられる(estoppeled)。 ・エストッペルを回復して侵害を立証する手立てとして均等論が考えられるが、原告の主張は、成文法における特許の要件及び特許クレームにより特許発明の範囲を図る(measure)問いう原則と両立しない。 [特許出願の審査の経緯] @特許出願の記録の中で本件に関連するのはクレーム7(特許が成立した時点でのクレーム4)である。クレーム7は特許出願人により補正されている。このクレーム7の内容を次に示す。なお、斜体は補正により削除された箇所、括弧入りの箇所は追加された箇所である。 実質的に水平なテーブルの上をボールが転がるようにしたボール・ローリング・ゲームに用いられる要素の組み合わせであって、前記テーブルに加えて、 当該テーブルの下面に下端を装備させ(carried)、当該テーブルに碇止された実質的なスタンダードと、 その上端が前記テーブルの上面から上方へ相当の長さで延びる、電子回路のためのリードと、 前記スタンダードを囲むコイルスプリングと、 このコイルスプリングを、前記スタンダードの上側から垂下するように(pendantly)、[テーブルの上側で]装備するとともに、スタンダードとコイルとを離して、コイルスプリングの下端をテーブルの表面の上で当該表面から距離を存して終端させ、このコイルが前記回路内の導電体として、テーブルを転がるボールとの衝突により弯曲してスタンダードに接するように設けた、コイルスプリング装備手段(means carrying said spring)と [前記回路内の]前記導電体とは別の(other)導電手段と の組み合わせであって、前記導電手段は、前記スタンダードから離れた場所でテーブルに積載され(carried by)[埋め込まれ(embedded in)]、前記コイルが弯曲したときにコイルの一部と係合することが可能(engageable)とした導電手段と の組み合わせ。 A本件の特許出願は、もともと6つのクレームを含んでいたが、審査官は発明性の欠如を理由として全てのクレームについて特許をすることを拒絶した。 B発明者は、新しいクレーム7、8を含む補正書を提出して、本発明の特許性について再考するように審査官に求めた。 C審査官は、4つのクレームを特許可能としたが、クレーム7については依然として特許することを拒んだ。 審査官は、次のように述べた。 “このケースで既に引用したように、コイルスプリングを変形させて電気的な接触を生じさせることは古い技術である。従って先行技術と差別化させるためには、本件特許出願の特定の接触構造において、コイルスプリングからの延長部分がテーブルに埋め込まれた環状導電体に接するように構成したことがクレームに表されるように特許出願人は検討するべきである。” D特許出願人は、接触構造がテーブルに埋め込まれた環状接触体と接触するようにするという審査官の提案を拒否した。その提案の代わりに、特許出願人は、クレーム中から“他の”という言葉を削除するとともに、元の記載中の“積載した”(carried by)に替えて”前記回路内の”及び“埋め込まれた”という文言を追加した。 そして特許出願人は、対応する電導体がテーブル内に埋め込まれたと補正することにより、クレーム7は十分に限定されたと意見を述べた。 特許出願人は、さらに次の意見を述べた。 ・“コイルスプリングの脚部(leg)19まで限定条件としてクレームに盛り込ませようとすることは行き過ぎである。” ・“先に許可されたクレームは、{競争者が}前記脚部をスプリングから分離した態様で採用し、かつ当該脚部をピンのようにテーブルに埋め込んで前記スプリングが変形時に当該ピンと当接するようにしたときには、容易に当該権利を回避できるように思われる。クレーム7は、こうした態様をカバーするためのものである。特許出願人に対する公平性の観点からクレーム7は、特許されるできである。” E審査官は前述の意見に応えて次のように述べた。 ・特許出願人が“真に”提案している事柄は{当該出願の添付図面に示された}スプリングから垂下している脚部を、当該スプリングから取り除いて、代わりにテーブルに埋め込むことによっても、{本発明の着想の下で}作動可能な装置が得られるということであると認識される。 ・しかしながら、審査官は、補正書によりクレームされた装置が作動不能(inoperative)である可能性を指摘する。何故なら前記コイルスプリングは、前記テーブルの上側で当該テーブルから距離を存して終端していないかもしれず、かつ前記テーブル内に埋め込まれたフェルールの中に延びていないかもしれないからである。 Fそこで特許出願人は、{コイルスプリングの形容句として}“テーブルの上側に”(above the table)という言葉をクレームに追加するとともに、“コイルスプリングの下端をテーブルの表面の上で当該表面から距離を存して終端させ”という文言を削除した。 |
[裁判所の判断] |
@裁判所は証拠物件5及び7について次のように判示しました。 (a)特許出願人が補正する前のクレームからは、素直に(plainly)原告の証拠物件5、7を読み取ることができる。何故なら、ネイル又はピンである導電体はコイルが弯曲したときにコイルに当接するからである。 またクレームは作動可能であると認められる。何故なら、ネイル又はピンはテーブルの上方に突出しており、かつ同様の場所に位置するコイルスプリングと係合可能だからである。 補正されたクレーム(特許クレーム4)は、仮にネイル又はピン導電体をテーブルに打ち込む(driven into)ことが“埋め込ませる”(embedded)ことに該当するのであれば、当該クレームから証拠物件5、7を読み取ることができるだろう。 (b)Petitioner(上訴人)は、それ{ネイルやピンを打ち込むこと}が“埋め込まれる”ことに該当しないということに関して深く(seriously)論じていない。事実、彼らは弁論趣旨書(brief)において“我々はこの点について一言述べる。”(we pass this contention)とわざわざ述べている。 彼らとしてはそうする他にやりようがなかったのであろう。 “Embedded”(埋め込まれた)の辞書的な意味は、“ベッドの中でしっかりとセットする”(Webster)、“固体の塊に囲まれた状態で十分に固定する。”(Oxford Dictionary)ということである。 証拠物件5及び7のピン又はネイルについては、それがテーブルの上面又は下面から飛び出しているとはいえ、それは、前述の辞書的な意味に当て嵌っている。また、それだけではなく、図面や明細書の検証によっても、当該クレームは、対応する導電体の全体がテーブルの表面及び裏面の間に収まっているという限定を意図しないことが明らかである。明細書及び図面はそうした限定を明示していないし、最終的に補正されたクレーム中の“embedded”問いう言い回しも、クレーム及び明細書の文脈から見てそのような限定を意図していない。 (c)特許図面は、埋め込まれたリングが僅かにテーブルの上及び下に延びている様子を描いている。審査官は、{本件特許出願の審査において}クレーム7に対する第2回目の拒絶理由通知で仮に{図面中の}スプリングから垂下する脚部を当該スプリングから取り除いてテーブルに埋め込んだとしたら、作動可能な装置となると述べている。 しかしながら、審査官は、埋め込まれた脚部又はネイルが全体としてテーブルの表面の下にある構成について言及していない。何故ならば、このように配置されたピンでは、ボールとの衝突によりいずれかの方向にコイルスプルングが弯曲しても、当該スプリングの一部と係合することができないからである。 特許用語は、図面及び{導電体の}機能に応じて許容可能な範囲(permissible sense)で解釈するべきである。その機能とは、当該特許用語が適用されるべき導電体が発揮するべきと意図されている機能である。 (d)我々{最高裁判所}は、特許クレーム4中の“埋め込まれた”(Embedded) という用語はテーブルにしっかりとセットされ(solidly set)かつ十分に固定され(firmly fixed)た、いかなる導電体も包含するように解釈することができる。 補正前のクレーム7からは、証拠物件5及び7を読み取ることができる。これら証拠物件においては、ネイル又はピンがテーブルに埋め込まれているが、テーブルの表面より上方に突出している。 従って特許権者は、導電手段をテーブルに埋め込まれたものと限定することによって、これら証拠物件により示された製品を、補正されたクレームから限定していない。従ってこれら製品については侵害が成立している。 A裁判所は、残る証拠物件に関して次のように判断しました。 (a)残る問題は、Respondent(相手方/原告)が他の4つの証拠物件の特許侵害を立証するために均等論を用いることができるか否かである。 (b)Respondentは、4つの装置の導電手段は、“テーブルに埋め込まれた”導電体とは文言通りに同じでないが、証拠物件5及び7との相違点は、特許クレームのようにテーブルに埋め込まれた導電体の機械的な均等物であり、均等論による保護の範囲内であるとした。 (c)Petitioner(上訴人)は、4つの証拠物件の導電手段が特許クレーム中の“テーブルに埋め込まれた導電体”と均等ではないということを十分に主張しなかった。 その代りに彼らは、均等論の主張は特許明細書においては発明を明確に記述しなければならないという成文法の要請に反するから、否定されるべきであると主張した。 (d)我々は、ここでこの論争を解決する必要を認めない。 {特許出願の審査段階での}制限的な補正がない状況での均等論の適正な範囲がいかなるものであるにせよ、特許権者{特許出願人}が補正により諦めた(surrendered)クレームの内容を回復(recapture)するために均等論を用いるべきでないということが、長年定着した解釈から導かれる。 (e)仮に特許権者{特許出願人}が始めから“テーブルに埋め込まれた導電体”とクレームしていたとすると、訴えられた装置(accused device)を含む範囲で均等論による恩恵が認められていたかもしれない。 しかしながら特許出願人が先行技術に基づく拒絶理由に対応するために、より広い概念である“テーブルに積載された”の代わりにその表現{テーブルに埋め込まれた}を用いたとすれば、全く異なる問題となる。 仮に{特許出願中の}クレーム7がそのオリジナルの形のままで特許になっていたら、訴えられた6つの装置の全部について侵害が認められたであろう。何故なら、コイルスプリングに対して、相補的な(complementary)導電手段は全てテーブルに積載せているからである。 (f)特許出願人は、クレーム中のその表現{テーブルに積載された}に焦点を当てて(striking)、これを“テーブルに埋め込まれた”に置き換えることにより、自らのコンビネーションのうちの導電手段を単にテーブルに埋め込まれたものに限定したのである。 すなわち、特許出願人は、補正によって、2つの表現の違いを認識するとともに強調し、その違いによって生ずる差異の部分の権利を放棄することを宣言したのである。 放棄された差異の部分は重大であると(as material)と認められ、補正は差異部分の放棄であるから特許権者に対して厳しく解釈されなければならない。 問題となっているのは、クレームの解釈であるから、{特許出願の当初の}クレームを審査官が拒絶したことが正しかったか否かは問題ではない。 従って、厳しい解釈によって特許出願人が放棄したとも認められる部分、すなわちテーブルに積載されているが埋め込まれてはいない導電体は、均等論を頼み(recouse)として回復することができない。何故ならば均等論は、自由な解釈によって、{特許出願人である}発明者の全ての利益(放棄されたものを除く)を確保するものだからである。 B結論 従って、証拠物件5及び7は、侵害されているが、証拠物件6、8〜10は侵害されていない。従って原判決は修正されなければならない。 修正判決。 |
[コメント] |
(a)本事例は、均等論の主張に対して、特許出願の経過による禁反言の抗弁が認められた最初の事例であると言われています。 (b)すなわち、もともと構成要件A+B+Cからなる発明として特許出願し、その審査の段階で先行技術に基づく拒絶理由通知(アクション)が発せられ、これを回避するために、特許出願人がクレームを構成要件a+B+Cに限定したとき(但し、aはAの下位概念)には、特許出願人が権利化を諦めた発明の範囲{(A−a)+B+C}については均等論によって回復できないというのです。 その理由は、そうした補正は、権利化を諦めた部分についての放棄の宣言とみなされるというのです。 (c)今日の均等論の考え方からすれば、減縮補正をしたから権利の放棄と言って良いのかは疑問がありますし、また先行技術の内容を検討せずに、補正前と補正後のクレームの範囲の相違部分全部に禁反言の抗弁を認めている点にも違和感を持ちます。 (d)均等論と禁反言との関係については、本件の後に大きな論争になりました。 一つの考え方は、特許出願の審査でクレームを減縮する補正をしたときには、均等論の主張を厳格に禁止するという立場(→コンプリートバーとは)であり、もう一つの立場は、クレームを減縮したケースであっても場合により均等論の主張が認められ得るという立場(→フレキシブルバーとは)です。 |
[特記事項] |
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