[事件の概要] |
@本件は、米国特許第4535773号(本件特許)の特許権者であるDr.InBae Yoonと彼の排他的ライセンシーであるEthicon
Incとの訴訟に対する地方裁判所の判決(請求棄却)に対する控訴審である。 A1989年にYoon及びEthicon Inc(原告)は、United State Surgical Corporation(被告)が本件特許を侵害したとして提訴した。 B1993年に本件訴訟の当事者は、被告側の参加人(defendant-intervenor)としてYoung Jae Choiが訴訟に加わることに合意(stipulate)した。 CChoiは、自分は{特許出願の手続から}締め出された(omitted)発明者である旨を主張して、被告に対して遡及的(retroactive)ライセンスを許諾した。 D本件特許の発明者性を修正するべきという被告の動議に対して、地方裁判所は、Choiは本件特許のクレーム33及び47から締め出された(omitted)と決定した。 E発明者性についての地方裁判所の決定は正しいから、そして共同発明者であるChoiが被告に対する訴訟に同意(consent)していないから、{原告の請求を棄却した}原審の判決は支持される。 [当事者の主張] 本件の控訴審において、控訴人(原告)は次のように主張しました。 (1)〜(3)省略 (4)ライセンス契約の条項は、Choiが貢献特許発明の部分について開発者を規制するべきであって、特許全体を規制するべきではない。 (5)(省略) |
[裁判所の判断] |
@裁判所は、共同発明性(Co-inventorship)に関して次のように判断しました。 Choiは、クレーム33及び47の発明の構想に貢献しているから、発明者として認められ、Choiを締め出した特許出願の手続きにより取得された本件特許の発明者の記載は修正されるべきである。 →ETHICON INC v. UNITED STATES SURGICAL CORPORATION (I) No.97-1269 A控訴裁判所は、特許の共有者がライセンスを許諾できる権限並びにChoiが被告に許諾したライセンスの内容に関して次のように判断しました。 (a)特許のオーナーシップの問題は、発明者性の問題とは異なる。 Beech Aircraft Corp. v. EDO Corp., 990 F.2d 1237, 1248 この原則の下で、当裁判所は、“発明は創作者に帰属する。”ことに着目する。 実際には、共同発明の状況では、各共同発明者は、各人の発明への貢献とは関係なく、特許の全体に対して、分割されていない利益(undivided interest)、すなわち持分を、按分して(pro rata)保有すると推定される。 (b)特許法の幾つかの規定は、相互に組み合わされてこのルールを表している。 米国特許法第116条は、共同発明者は、その特許法第116条は、共同発明者は、その特許の各クレームの主題に貢献する必要はないと述べている。 米国特許法第261条は、“特許は、個人の財産としての性質を有する。”と述べている。この規定は、オーナーシップを含む財産的権利が各クレームではなく、特許全体にあることを示唆している。 さらに米国特許法は、“特許の共同所有者”という言葉を用いている。クレームの共同所有者でないことに着目する出来である。 従って、たった一つのクレームの共同発明者でも特許全体のオーナーシップに関して共同所有者となる。 (c)当裁判所は、次にChoiが行使した権限の範囲について審査する。当裁判所は、ライセンスの合意を含む契約上の用語の解釈を法律問題として見直す。 (d)州法(本件ではコネチカット州)が契約の解釈を支配する。この見直しにおいては、契約用語の通常の普遍的意味を採用する。 (e)Choiが被告に対して許諾したライセンスの内容は次の通りである。 ・ChoiはU.S.Surgical(被告)に対して次の対象を、製造し、使用し、市場に出し(market)、販売する排他的かつ世界的な権利及びライセンスを許諾する。 ”米国特許第4535773号(以下773号特許という)に記載され或いはクレームされたシールド付きのトルカールを含む(including)、Choiのトルカール関連発明” ・このライセンスは前記特許の発生の日まで遡及(retoractive to)する。 (f)被告は、この言い回し(language)が773号特許に記載され又はクレームされた全てのトルカールをカバーするものと、即ち、773号特許の全体およびそれ以上を包含(encompass)するものと解釈した。 (g)原告は、同じ言い回しをChoiのトルカール関連発明であって彼が貢献したクレーム33および47に限られると解釈した。 (i)”773号特許に記載され或いはクレームされた…トルカールを含む(including)”と言うフレーズの意味は、”including”という言葉次第である。 それが単にトルカール関連発明を明確化する意図であるならば、”including”という言葉は、当該発明を主せいし、Choiの許諾の範囲を限定するかもしれない。 しかしながら、”including”という言葉は、追加のフレーズ(phrase of addition)としても機能するのである。このより広い読み方(reading)によれば、トルカール関連発明は、”including”のフレーズで特定された事柄以上の事柄をカバーするのである。 可能であるときは、裁判所は契約中の一つの条項(provision)が同じ契約中の全ての部分に対して意味づけをする(provide meaning to)ものであり、かつ、契約内部で釣り合いが取れている(provide internal harmony to)ように検討しなければならない。 Barnard v. Barnard, 214 Conn. 99 文脈に着目すると、”including”のフレーズは、追加のフレーズであって、”トルカール関連発明”を特定するクレーズではない。 この合意では、“Choiは、彼のトルカール関連発明又は773号特許に記載され或いはいずれかのクレームに含まれるいかなる装置をも製造し、販売し、或いは使用する権利又はライセンスを他人に許諾しておらず、かつ許諾してはならない。”と述べている。 これに加えて、合意は、“Choiは、773号特許の侵害者を訴える全ての権利(sole right)を許諾する。”と述べている。 仮にライセンスの範囲が773号特許の共同所有者としてのChoiの全ての権利を包含しないとするのでれば、これらの補助的条項は不可解に広すぎる。 この書類からは、むしろChoiの許諾は773号特許の者での共同所有者の全ての権利の許諾であったと考えられる。 従ってChoiのライセンスに対する地方裁判所の解釈は妥当である。 B控訴裁判所は、遡及的ライセンス等に関して次のように判断しました。 一の共有者が許諾した遡及的ライセンスは、他の共有者に生じた過去の損害に対する侵害者の責任を免除するものではない。しかしながら、共有に係る特許権の侵害訴訟には共有者全員が原告として加わる必要がある。本件訴訟は、その条件を満足していないから、却下される。 →ETHICON INC v. UNITED STATES SURGICAL CORPORATION (III) C従って原告の請求を棄却した原判決は維持される。 |
[コメント] |
(a)本件は、一つの特許が複数人により共有されており、その共有者(Co-owner)が共同発明者(Co-inventor)である場合に、一人の発明者(特許権者)が発明の構想に貢献していないクレームについてまで他人に発明の実施のライセンスを許諾できるのかが争われました。 (b)発明者である特許権者は自己が発明したクレーム以外のクレームについてライセンスを許諾することができないという考え方 (本件訴訟の原告の主張)にも、一理あるようにも思えますが、裁判所は、成文法の規定の解釈から、これを退けました。 米国特許法は、“特許”の共有に規定しているが、クレームの共有に関しては言及しておらず、これは、いずれの特許権者も特許に含まれる全てのクレームについて法律に定める利益を享受すると推定される考え方を前提としているというのです。 そしてこの考え方は、特許権者が権利の一部(持分)を他人にした場合だけでなく、共同発明について特許出願された場合にも当てはまる、というのです。 (c)裁判所がこうした解釈をとった理由は推察できます。仮に全ての共有者が全てのクレームに関して権利を享受するという推定が働かないとすれば、特許権の共有者同士で争いが生じる度にその共有者が権利を享受するクレームを決定しなければならず、司法にとっては大きな負担になるからです。そのように推定されるのが嫌であれば、予め共有者となる当事者間で誰がどのクレームについて利益を有するのかを書面化しておければ良いのです。 (d)こうした紛争を生じた第一の理由は、甲及び乙の共同開発の結果物を、発明の基本的なコンセプトを出した発明者甲が、当該コンセプトを実現するための具体的な手段を提案した発明者乙に黙って、自分を唯一の発明者として特許出願をしたことです。 そして乙に何も知らせないままで特許出願が許可され、特許権が付与された後の侵害訴訟において、この訴訟の被告が乙の存在に気づいて、乙から遡及的ライセンスの許諾及び被告に対する訴訟上の支援の合意を取り付け、合わせて当該特許の発明者を甲及び乙に訂正するように裁判所に請求したのです。 この場合には、当然ながら、甲及び乙の間で各人が利益を享受するクレームに関して話し合い、書面化する機会ははじめから存在しませんでした。 (e)前述の紛争を生じた第二の理由は、数十ものクレームを含む特許出願のうちで共同開発の成果はごく一部(訴訟上で共同発明性が争われたのは2つであり、共同発明性があると認定されたのは一つ)だったことです。 共同発明者が全て一つの企業の従業員であって、当該企業に特許出願又は特許を譲渡する旨の合意ができている場合を除いて、共同発明である発明とそうでない発明とをひとまとめとして特許出願すると、後に共有者間での利益の対立を生じ易くなります。 |
[特記事項] |
戻る |