[事件の概要] |
@原告(特許出願人)は、即席冷凍麺類用穀粉について特許出願したところ、引用例に基づいて特許法第29条の2が適用され、拒絶査定を受けたため、審判を請求し、請求を棄却されたため、本訴訟を提起した。 A本件発明は次の通りです。 「タピオカ澱粉(注、上記手続補正書に「殿粉」とあるのは誤記と認める。)12〜50重量%と穀粉類88〜50重量%とからなる即席冷凍麺類用穀粉。」 B先願明細書の開示内容は次の通りです。 「タピオカ澱粉5〜30重量%と穀粉95〜70重量%とを配合した製麺原料粉を真空度約600mmHg以下の減圧環境下で加水混練し、常法どおり製麺することにより生うどんを製造し、次いで生うどんを沸とう水中で茹でてゆでうどんを製造し、得られたゆでうどんを急速冷凍することにより冷凍うどんを製造する」 尚、先願では評価項目につき、小麦粉100%使用の麺よりも劣悪な評価しか得られていません。先願明細書の実施例1に従って製造された冷凍うどんは、小麦粉100%使用の麺を基準としその評価点を「3」として対比した場合に、「滑らかさ1.1」、「粘性1.7」、「弾力性1.0」及び「煮崩れ状態1.0」とされています。 C原告は、先願発明が本願発明に対するいわゆる後願排除効を有するためには、先願発明が用途発明として完成していることが必要であると解すべきである、と主張しました。その理由は次の通りです。 ア.本願発明は、いわゆる用途発明である。すなわち、タピオカ澱粉と穀粉との組成物を即席冷凍麺類用穀粉に用いると食味、食感の点で優れていること、すなわち、タピオカ澱粉という既知の物質を特定割合で他の穀粉類と配合して即席冷凍麺類用穀粉という用途に使用することにより優れた効果が得られることを見いだして特許出願されたものである。 イ.タピオカ澱粉が喫食可能であることは古くから誰でもが知っている事柄であり、これを小麦粉等の即席冷凍麺類に使用できる穀粉に混ぜても喫食可能であることも、誰でもが認識できることである。そうすると、被告主張のように喫食可能な即席冷凍麺類が製造できればよいとするのであれば、創作的要素などあり得ず、用途発明と呼べるようなものではなくなってしまう。 D被告の主張は次の通りです。 本願発明が完成した発明であるとすれば、とりもなおさず、先願発明も完成した発明であることになる。なぜなら通常の技術では、後願の発明と先願の明細書に記載された発明とが同一の構成であれば、同じ程度に完成しており、同じ効果を奏すると判断するのが当然だからである。 |
[裁判所の判断] |
@ 裁判所は、用途発明に関して次のような判断を示しました。 「用途発明は、既知の物質のある未知の属性を発見し、この属性により、当該物質が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明であると解すべきである。なぜなら、既知の物質につき未知の属性を発見したとしても、それによって当該物質の適用範囲が従来の用途を超えなければ、技術的思想の創作であるということはできず、また、新たな用途への使用に適するといえるものでなければ、適用範囲が従来の用途を超えたとはいい難いからである。」 A次に裁判所は、引用例が新たな用途を提供しているかということに関して次のように判断しました。 「先願明細書には、タピオカ澱粉を特定割合で他の穀粉類と配合して即席冷凍麺類用穀粉として使用した場合に、従来技術以下の効果を奏することしか開示されていないことになる。そして、その効果が従来技術以下であるにすぎないものとすれば、先願明細書の記載において、タピオカ澱粉が、その特定の属性により即席冷凍麺類用穀粉という新たな用途への使用に適することは未だ見いだされていないといわざるを得ず、先願発明が、用途発明として完成しているということはできない。」 |
[コメント] |
食材を特定の食品に用いることが新たな用途の提供といえないという判断は、おそらく誰も同意するでしょうが、本件で面白いのは先願発明が未完成発明と判断された結果として、後願発明が特許法第29条の2の適用を免れている点です。 用途発明への特許法第29条の2(拡大された先願の地位)の適用に関しては下記を参照して下さい。 平成10年(行ケ)第401号(II) |
[特記事項] |
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