[事件の概要] |
自動車用ペダルのアセンブリに関して次のことが知られています。 ペダルの位置を、運転者の背の高低に合わせて身体の遠く又は近くに調整すること。 ペダルの位置の信号を発信する電子スロットル制御を備えること。 本発明者は、簡易な構成・廉価・少部品なペダルアセンブリに関して次の特許を有します(USPAT NO.6237565)。 “前後動可能なペダルアーム14を有するペダル組立体22を、ピポット24を介して支持体18に取り付け、 ペダルアームの位置の信号を供給するようにピポットに応答する電子制御装置28を設け、 ペダルアームが前後してもピポットが固定位置にあるペダルアセンブリ”(請求項4)。 特許権者はKSRを特許権侵害で訴え、KSRは本件発明が進歩性欠如で無効であると反論しました。 地方裁判所は、ペダル制御に親しんだ機械工学の大学生をペダル設計の技術水準として、引用例1〜3から本発明に容易に想到し得ると判決しましたが、この判決は控訴裁判所により覆されました。 その理由は、当業者が調整可能なペダルにセンサを適用するに際し、異なる目的(一定比率の課題の解決)の引用例3にセンサを設けることを検討する理由がないからです。 その根拠は主にTSMテストに拠り所としており、先例として217 F.3d 1365 In re Kotzab(特許出願/特許に係る発明が古い技術の組み合わせか否かを判断する際には、発明の各要素が先行技術に存在するだけでは足りず、その組み合わせが好ましいことの動機付け・示唆・教示が存在する必要がある)を挙げています。 |
[最高裁判所の判断] |
(引用例3の目的の相違の評価) 当業者は自動人形ではなく創造力を持った人であるから、設計のインセンティブや市場の要請は或る分野の研究成果を変形することを促すと解釈され、 技術常識は、よく知られた技術的事項が主目的を超えた自明の用途を持ってもよくかつ複数の特許を一緒に適合することができることを教示しているから、 引用例3の目的がペダルの調整と異なることは当該特許の適用の阻害要因とはならない。 (本願発明の構成に至る具体的論理付け) センサをエンジンではなくベダル装置に設けることの有用性は既知のことであり、 Rixon特許のペダルは脚部にセンサを設けているが、ペダルを押下げかつ解放するときにワイヤが擦れることが知られており、 引用例2は、ペダルの脚部に代えて支持構造体にセンサを設けた構成を開示しかつ「ベダル組立体は、接続ワイヤの如何なる運動をも促進してはならない」と教示していた、 これらの教示から、引用例1〜3を組み合わせようとする当業者は、ペダル組立体のうち動いていない部分にセンサを設けようとするであろうし、 当該組立体のうち最も動いてないことが明らかな箇所はピポットである、 故にピポットにセンサを設けることが自明であることは容易である、 と判断されました。 |
[コメント] |
グラハムの判決は、進歩性判断の手順として、先行技術の範囲及び内容の決定、先行技術及び請求項の相違点の確認の他、発明の分野での当業者の水準の決定を挙げています。 これは、ある発明品(グラハム判決では農業機械)の技術分野の当業者といっても、発明品を使う人もいれば、発明品を製作する人もいて、いずれを基準とするのかで進歩性の判断に影響があるからです。 →KSR判決の意義(先例との関係) 本件は、当業者の水準をペダル制御に親しんだ機械工学の大学生程度としました。 しかし大学生とはいえ、創作能力を有する人であり、自動人形ではないのだから、或る技術を、その目的を超える用途へ適用することは容易に想到し得ると判断されました。 “複数の特許の教示をパズルのように組み合わせて”という表現を見ると、何でもかんでも組み合わせてよし、と言っているようにも思えます。 しかし、判決文を見ると、技術常識に照らして、引用文献に直接記載していないが、当業者が思いつくであろう動機付け(センサの設置場所を出来るだけ動かない場所とする)なども参酌して進歩性を否定する論理付けを考えようとしていることが判ります。 |
[特記事項] |
MEPE(日本の進歩性審査基準に相当するもの)で引用された事例 |
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