[事件の概要] |
@特許出願の経緯 本件発明(米国特許出願第39,489号)は、本体と連係する複数の静止ディスクとホイールと連係する複数の回転ディスクとを交互に重ねて、両ディスク間の摩擦力により制動するように設け、かつディスクの材料を有孔材料であるカーボンとした基本構成を有するブレーキに関します。 ブレーキが湿っていると水分がディスク間の摩擦抵抗を低減します。 これを防止するために、原告である特許出願人(Wiseman)は、 (イ)ディスクの摩擦面にその内周と外周との間を横切る複数の溝22を相互に一定間隔を存して設け、ディスク材料から発生する水蒸気を排出するように形成する、 (ロ)各溝22は半径方向に対して大きな角度で設ける、 という内容の発明を米国特許商標庁に出願しました。 その継続出願に対して拒絶査定が出された。 A本件特許出願の先行技術 被告である審判部は、基本構成を開示する引用例1(USP3692150)と、溝付き金属製ディスクを開示する引用例2(USP3161260)とから当該発明に容易に想到し得るとして進歩性を否定しました。 本件発明 引用文献2 B特許出願人の反論 原告は、次のように反論しました。 (論点1) Phair doctorin(ある技術の欠点を発見して改良することは、仮に欠点が既知であれば自明の程度の改善でも特許性がある)に照らすとディスクから生じた水が摩擦力を低減することの発見に困難性がある、 (論点2) カーボンディスクは冷却を必要とせずかつダストを発生しないので、引用例1〜2を結合する動機付けがない |
[裁判所の判断] |
論点1に関してカーボンブレーキ内の水の発生により摩擦係数が低下する現象を発見したのが原告であるという明確かつ説得力のある主張(clear
and persuasive assertion)が明細書中に存在しない、 論点2に関しても、カーボンディスクは冷却の必要がない・ダストを生じないという十分な証拠がない、 と判断しました。 |
[コメント] |
(a)本件発明のディスクの溝は、ブレーキディスクの摩擦力低減防止という目的のために摩擦係数の低下の原因となる水を外部へ逃がすことであり、副引用例の溝は、同じ目的のために摩耗の原因となるダストを空気とともに外部へ逃がすものです。 両者は、ブレーキディスクの摩擦力低減防止の原因となる或る物質を外部へ逃がすためにリング状ディスクを横断する溝を設ける技術として共通します。 作用・効果の認識で異なることは発明として本質的な事柄とは言えないから、判決の如き結論になることは止むを得ないと考えます。但し原告の適用阻害要因の反証が成功していたら結論が逆転した可能性はあったと思います。 (b)主引例及び副引例の発明の課題が異なるだけではなく、副用例の発明特定事項(置換対象)が主用例の発明の目的に適しない場合には逆の結論になる可能性があります。 →平成17年(行ケ)第10717号(カプセル封入材事件) |
[特記事項] |
米国審決集(201USPQ658)及び日本国進歩性審査基準に引用された事例。 |
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