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判例紹介
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●事例5A 平成8年(行ケ)第262号(自動ブランケット洗浄装置)


作用機能の共通性/動機付け/進歩性

 [事件の概要]
 印刷機のブランケットシリンダには印刷時に付着物が集積し、印刷の品質を損ないます。

 付着物のうち生糸などは水溶性ですが、インクを基礎とするものを除去するには炭化水素溶剤が必要です。

 そこで被告は、布帛供給ロールと布帛巻取りロールとの布帛をブランケットシリンダに近接させ、ブランケットの反対側に布帛に水を導く導管・布帛に非水溶剤を導く導管・布帛圧接用の膨張部材を設けた自動ブランケット洗浄装置の発明をしました(特許第1670505号)。

本件発明 



引用文献1




 図示例では、両導管は膨張部材に対して布帛の移動方向の両側へ液体を吐出するように設けています。

 原告は、甲第1〜3号証から本件特許発明を容易に発明できるとして無効審判を請求しました。

 甲第1号証(USPAT NO.2525982)は、ブランケットシリンダの洗浄装置であり、ウィックホルダの先部に付設したスポンジ製ウィックを、ブランケットシリンダへ接触させ、離反させることが可能に構成しています。

 ウィックホルダは、カム機構を用いて先部が基部に対して前進・後退可能としたテレスコープ型の箱体です。

 箱体の基部には洗浄液の導管の端部を接続し、箱体内部を介してウィックに洗浄液を染み込ませます。

 甲第2号証は印刷機の凹版シリンダの版溝以外の部分に付着した余剰なインクを除くために布帛を接触・離反可能なパッド(膨張部材)を、甲第3号証はシリンダに供給される布帛に洗浄液を吐出する導管をそれぞれ開示しています。

 審判官は、

@甲第2号証は膨張部材で移動させる布帛の対象及び作用が異なる、

A本件発明では膨張手段と水用導管と溶剤用導管と併設することでシリンダへの布帛の接触・離脱の繰り返しを迅速に制御できると認めて、審判の請求を退けました。

 [裁判所の判断]
(引用文献の開示内容の検討)

 また甲第1号証には、次のことが開示されています。

 クリーニング速度を向上することが重要であること。

 シリンダ表面のクリーニングすべき範囲に布帛を接触させるようにウィックを移動した後、布帛及びウィックを離反させて布帛の汚れていない部分をウィックとの接触位置に移動させることで短時間で効率的なクリーニングが可能であること。

(進歩性に関する判断)

 甲第1号証のカム式の押圧手段も甲第2号証の膨張式の押圧手段もシリンダの洗浄を布帛を押圧して行う点で共通し、

 甲第1号証のカムも甲第2号証の膨張部材も布帛を接触・離反・移動させるために設けられている点で共通する、

 上記甲第1号証の開示内容を参酌すると、甲第2号証は布帛の対象及び作用が異なるから甲第1号証に転用する動機付けがないという被告の主張は採用できない、

 と判断されました。

 [コメント]
 布帛を押圧する対象の相違(ブランケットシリンダか凹版シリンダか)、

 押圧する意図の相違(汚れ等の付着物の除去か版溝以外の部分に付着した余剰のインクの除去か)という点で、本件発明及び甲第2号証の押圧手段は機能(技術的意義)が異なると認定しつつ、

 印刷機のシリンダ上の付着物を除くために布帛を接触・離反させるという作用の共通性を主観点とし、甲第1号証中の示唆(クリーニング速度の向上の要請)を従たる観点として押圧手段の転用が容易と認めた事例です。

 事後分析的に作用の共通性のみを取り出して進歩性を否定したのではない点に留意すべきです。

 洗浄液供給手段を兼用する甲第1号証の押圧機構は、一種類の洗浄液を継続的に供給するという用途に適しており、水の供給→乾燥→インク溶剤の供給→乾燥というサイクルのためにシリンダへの接触・離反を頻繁に繰り返すという本件出願人の意図からは外れるかもしれません。

 しかしながら特許請求の範囲の記載から判断して先行技術との相違がないから、判決の結論になるのは止むを得ません。

(d)本件では、引用発明は回転体にインク拭き取り部材を押し付けることにより印刷時に余剰に付加したインク部分を拭き取る拭き取り機能を発揮し、特許出願人の発明は回転体に洗浄用ブラケットを押し付ける洗浄機能を発揮するという違いはあるにせよ、回転体に何かを押し付ける作用では共通していたため、進歩性が否定されました。これとは異なり、押し付け方も異なる(作用も異なる)場合には、引用発明の適用に阻害要因が認められる可能性があります。→平成13年(行ケ)第519号(分割シート巻取装置事件)


 [特記事項]
特許庁審査基準に引用された事例
 
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