今岡ニュース

2014年10月15日(水曜日)特許ニュース

青色発光ダイオードと長期間不実施であった課題(進歩性)


ハインドサイト/進歩性/特許出願の実体的要件

 既に皆様ご存じのように青色発光ダイオードの開発に貢献された3人の日本人物理学者がノーベル賞を受賞されました。このところ、暗いニュースが多かったので、曇天に雲の晴れ間を見た思いです。特に中村修三氏は、いわゆる404号特許の権利の帰属を巡っての訴訟で苦労しただけに歓びもひとしおであろうと推察いたします。

 ところで改めて404号特許の履歴を復習してみたのですが、意外なことにこの特許に対しては、特許の直後に進歩性欠如を理由とする異議申立が行われております(平成10年異議第70036号)。

 異議申立とは、今ではない制度ですが、要するに、特許出願をして審査官が特許することができると判断した発明に関して、何人も特許公報の発行日から一定期間内に実体的要件(新規性・進歩性など)を満たしていない旨の申立をすることができる、特に異議申立人から提供する先行技術を利用して、公衆の審査協力により特許の是非を見直す、という制度です。本件の場合には、この発明に対して先行技術から容易に創作できたという理由で異議が申し立てられたということです。

 これを聴くと、一般の方は、“仮にもノーベル賞の受賞理由となった発明を容易に創作できたのは何事。”と思うかもしれませんが、異議申立に対応して特許権者は特許出願の願書に添付された特許請求の範囲を減縮しておりますので、それなりの説得力がある異議申立であったものと推測されます。

 進歩性の評価には難しい側面があります。皆様ご存じの通り、発光ダイオードの歴史では光の三原色のうち青以外の2色の発光ダイオードがいち早く実現されました。あと一色揃えば発光ダイオードの有用性が格段に向上するというので、世界中の技術者が青色発光ダイオードの実用化を目指しましたが、それはなかなか実現しませんでした。これは、特許の分野では、“長期間要望されていたが不実施であった課題”と呼ばれ、特許出願に係る発明の進歩性の評価にプラスに働きます。誰もが実現を目指したが実施されなかった、それはその発明をすることが技術的に困難だったからである、という推察が働くからです。異議申立の審理においても、審判官の合議体では、「本件発明によれば、結晶性の良い状態で成長させるのが極めて難しいとされる窒化物半導体等の半導体結晶膜を、優れた結晶状態に成長できる。」という効果を指摘し、進歩性がないという異議申立を退けています。

 本件特許の場合には、“長期間要望されたが不実施であった課題”という特別の事情がなくても特許になったとは思います。しかしながら、これに準ずる程度の創作困難性のある別の特許出願において、そうした特別の事情がないために、本来進歩性を認められるべき発明が特許にならない、という可能性があることは否定できません。

 というのも、特許出願の審査では、明細書等に従来の技術の課題とこれを解決する手段が並んで記載されているために、審査官は発明の困難性を過小評価し易いからです。審査官は、ミステリー小説の解決編を先に読んでしまう読者に似ている、 と言われます。こういう審査官の陥りやすい落とし穴を、特許の実務では、後知恵(ハインドサイト)とか事後分析と言います。そうさせないのが弁理士の腕の見せ処なのですが、果たして十分に発明の進歩性を主張できているのか、と自問自答する日々この頃であります。


 
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