今岡ニュース

2014年10月28日(火曜日) 特許ニュース

商標の普通名称化(その2)


自他商品識別力と新規性・進歩性/商標出願の要件と特許出願の要件

 前々回のコラムでラッパのマークの正露丸が普通名称化してしまったということをお話ししましたが、それをもう少し掘り下げてみます。

 商標は、選択物であるといわれます。事業者が自分の商品と他人の商品とを需要者に識別させるためにマークとして選択するものであり、発明や意匠のような創作物としての価値を有するものではありません。従って特許出願の実体的要件である新規性や進歩性は要求されず、商標の実体的な要件として要求されるのは、自他商品識別力です。それ故に商標は、発明や意匠のように、公開されることで新規性を喪失して保護を受けられるということがありません。市場において商品を投入して、商品名が世間に知れ渡ってから商標出願をしても、他人が先に商標出願して先願主義違反で拒絶される場合は別として、商標登録を受けることができます。しかしながら、多数の同業者が一斉に真似すると、商標としての機能が損なわれてしまうのです。

 商標が普通名称化して商標登録を無効されたり、商標権の効力が制限された例として、正露丸の他に巨峰などがあります。どういう経緯で普通名称化したのでしょうか。

 正露丸の場合には、日本の軍隊に医薬として納品され、兵隊に使用させていたようです。軍隊の資材購入担当者は正露丸(その当時は征露丸)が商標だと認識していたとしても、大多数の兵隊は商品の選択・購入の場面に関わらないので、商標としての認識が低く、そのまま“せいろがん”という呼び名のみが広く知れ渡ってしまいました。これは、自他商標識別力の維持という観点からは、好ましくない環境です。

 巨峰は民間のぶどう研究家により新品種として開発され、研究家の関係者が商標権を取得しました。そして民間団体に所属する複数の団体員に使用料をとって登録商標を使用させるなどの状況が存在しました。おそらく新品種を地域の名産品として定着させたいという要望もあったのでしょう。商標権の活用の態様として他人に使用させるのは、商標法が予定するところでありますが、商標権の管理は難しい状態であります。やがて「巨峰」の商標的使用と普通名称としての使用とが同時に存在する状態となります。最終的には、後の商標権侵害差止訴訟(平成13年(ワ)第9153号)において登録商標が普通名称化していると認定され、差止請求は認められませんでした。

  技術的思想である発明の価値は、特許出願の時点で新規性・進歩性などの形で評価されますが、商標の価値は、市場におかれた状況に左右されます。

 すなわち、商標は、市場において使用され、或いは広告されることで、需要者に知れ渡り、それ自体が宣伝機能を発揮するようになり、財産的価値が高まっていきます。しかしながら、需要者に知れ渡ることで、一つ間違うと商標としてではなく、普通名称として認知され、商標としての価値が、零になる、という可能性もあります。天国から地獄に落ちると表現するのは大げさかもしれませんが、事業者の財産である商標権が無価値化するというリスクは事業者にとって大きな痛手であります。

 私たち弁理士も、初めて商標出願をしようとする依頼者に商標の特性を良く説明しなければならないと認識させられる事件でありました。


 
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