今岡ニュース

2014年11月25日(火曜日) 特許ニュース

特許権者の国内での不実施と損害額の推定


損害額の推定規定/進歩性・特許出願

 紙おむつ用のゴミ箱に関する特許権を侵害したとして、特許権者である英国企業が大阪の業者を訴えた損害賠償請求訴訟において、最高裁は、本年11月20日までに、業者側の上告を訴える決定をしました。

 これにより、損害賠償金の支払いを決定した二審・知財高裁判決(→平成24年(ネ)第10015号)が確定しました。

 侵害品となったのは、使用済み紙おむつを簡単に包装し、廃棄するためのカセットであり、侵害品の販売により侵害者が得た利益の額を特許権者の損失の額と推定する旨の規定(特許法第102条第2項)の適用の是非が主要な論点となりました。業者側は、特許権者が外国で製造した特許製品を我国に輸入しており、国内での実施をしていないので、上述の推定規定を適用すべきではないと論じました。

 しかしながら、二審の裁判官は、
(イ)上記規定には特許権者が特許発明の実施を要すること旨の文言がない、
(ロ)上記規定は、損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられたものであり、また推定規定に過ぎないから、その適用に当たって殊更厳格な要件を課すことは妥当性を欠く、
 と指摘して、業者の論旨を退けました。

 「殊更厳格な要件」という言葉には説明が必要です。上述の過失規定の趣旨は、例えば侵害者側が1000万円の製品を売れば、それは特許権者が1000万円の特許製品を売る機会を奪うことになる、従って侵害者側の利益額は特許権者側の損失額と推定することができ、そうでないとすれば侵害者側がそうではないと反証すればよい、というものです。かつては、この規定の適用に関して、過失の規定は特許権者の保護規定であり、発明を保護する理由は我国の産業の発達に貢献するためであるから、特許権者が国内で製品を製造し、国内での雇用を創出したり、原材料を購入するような場合に限って適用すればよいのではないか、と考えられることがありました。しかしながら、経済活動が国際化し、日本企業も海外で製品を製造することが多くなった今日では、特許製品の製造地が国内か国外かということに拘る理由がなくなっているのです。

 なお、特許権の有効性に関して、特許出願前に公知であった複数の先行技術文献を組み合わせることにより当業者が本件特許発明に到達することが容易であるから進歩性がないという主張が裁判で行われましたが、裁判官は、先行技術文献同士の発明の課題や思想が相違するので進歩性が認められると判断して、その主張を退けました。


 
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