内容 |
@「目覚まし兼用トランジスタラジオ」事件(昭和41年(行ケ)第183号)
事件の種類…登録無効審決取消請求事件(請求是認)
{本件考案}
「時計機構により電源回路を開閉する受信機のトランジスタ増幅回路において、そのトランジスタの出力側とその入力側との間に饋還回路を接続して発振回路を形成せしめ、該饋還回路を増幅回路に挿脱する開閉器を設けてなる目覚し兼用のトランジスタラジオ受信機の構造。」
{引用例1}
「時計機構により電源回路を開閉する受信機の真空管増幅回路において、別に発信管による発信回路を形成せしめ、該発信管を増幅回路に挿脱する開閉器を設けてなる目覚し兼用真空管ラジオ受信機」
{引用例1との相違点} (1)前者がトランジスタラジオ受信機であるに対し、後者が真空管ラジオ受信機である点、
(2)前者がトランジスタの出力側とその入力側との間に饋還回路を接続して発振回路を形成しているに対し、後者が発振管による発振回路を形成している点、
(後略)
{裁判所の評価}
トランジスタが真空管と同等の作用をするためラジオ受信機においてトランジスタが真空管の代りに使用されていることは周知であるから、後者の真空管ラジオ受信機をトランジスタ受信機に改変することは容易である。
ただし、トランジスタ受信機の方が小型で電力消費量が少なく、起動が早いなどの利点があるが、これらは、いずれも、トランジスタの使用に伴う必然的の作用効果であり、
トランジスタを用いると起動が早いため目覚し起動時刻がより正確になるといつても、その差はきわめて僅少であるから、これを格別の作用効果と認めることはできない。
A進歩性審査基準では、“一定の課題を解決するために…均等物による置換…などは、当業者の通常の創作能力の発揮であり、相違点がこれらの点にのみある場合は、他に進歩性を推認できる根拠がない限り、通常は、その発明は当業者が容易に想到し得ることができたものと考えられる。”としています。
B真空管をトランジスタに置き換えることは、一般的には均等物による置換に相当し、特別の事情がない限り、発明の進歩性は認められません。考案の進歩性に関してもほぼ同様でしょう。
C本件では、権利者側は、起動が早いというトランジスタの特性と、目覚まし時計の機能とを結び付けて、進歩性を認めるべき特別の事情がある、と主張しようとしたのですが、裁判所は、差異が極めて僅少であるとして、権利者の主張を退けました。
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