内容 |
@「干物棹」事件(昭和44年(行ケ)第78号)
事件の種類…実用新案登録無効審決請求取消事件(請求是認)
本件考案…竹又は木の棹(1)にビニール管(2)を被覆し、熱処理を施してビニール管を収縮させて棹に密着しこれを締付けた干物棹。(実用新案登録第512、124号)
引用例1…熱収縮性ビニールを竹や木の棹に被着させ、収縮密着させるもの(特許出願公告昭和29年−2843号)。
引用例2…干物具として表面に多角形状のビニール管を使用しこれに多数の糸条2を芯とした組紐を挿入密着したもの。(実用新案登録出願公告昭和29−4875号)
{審判官の見解} 引用例2が心材する以上、この考案は、引用例1記載の木の棹と干物棹とするものに過ぎないから進歩性がない。
{権利者の主張(審決取消理由} (イ)第一引用例は、ビニールの被覆による木や竹のひび割れ防止についてなんら示唆するところがない。
(ロ)第一引用例には、木製の杆にビニール管を被覆し、熱処理を施してビニール管を収縮せしめて杆に密着させた産業用機械器具用木杆について記載されているにとどまり、本件考案の出願時においては、かかるビニール管の被覆により木杆の割裂を防止できるということは、想像しえなかつたところといわなければならない。
(ハ)けだし、従来、産業用機械器具に用いる木製の杆には、例えば、樫、楢などのような緻密、堅硬で、しかも、ひび割れをしないようあらかじめ乾燥処理した材料を選ぶのが普通であり、特別に割裂防止のための手段を講ずる必要はなかつたからである。
(ニ)したがつて、本件考案のように、従来の木や竹の干物棹がひび割れやアクのために汚染損傷を生じていたのを防ぐため、熱収縮を起すビニール管を利用して、干物棹を案出して、前記弊害を除去したのは、全く新規な技術思想であつたのであり、これを誤認した本件審決は、判断を誤ったものというべきである。
{裁判所の見解}
(イ)引用例1には加熱によつて収縮する熱可塑性樹脂管の製造方法が開示されているとともに、その樹脂管の用途に関し、次の記載がある。
「例えば金属製、木製等の管、杆を本法による樹脂管内に挿入して加熱する時は樹脂管は収縮して金属等の管杆に密着し、之を完全に被覆する。この場合管、杆に凸凹があっても之が著しくない限りその形状に従って被覆を行う。斯かる被覆を行ったものは各種薬剤に対する耐腐蝕性が大きいので、腐蝕性溶体に接触する機械器具に使用して好適である。又単に美麗な管或は杆を希望する場合は、之に応じた意匠を施した樹脂管を使用して管、或は杆の被覆を行うことによって目的物が得られる。」
(ロ)これによれば木製等の管、杆をビニール管によって緊密に被覆することによりその腐蝕等を防止し、またはその物の美化を図る等の構成および作用効果は開示されているが、ビニール管をもつて木製または竹製の干物棹を緊密に被覆することにより、その材料の割裂を防止し、かつ、干物の汚染損傷を防ぐようにする構成および作用効果については全く言及するところがないことが認められる。そうすると、引用例1の記載から先に認定した本件考案の構成および作用効果が自明であるとまでみることは相当でない。
A進歩性の審査基準には、“(容易想到性の)論理付けは、種々の観点、広範な観点から行うことができる。具体例として、最適材料の選択・設計変更、単なる寄せ集め…。”と説明されています。
しかし、防蝕・物の美化を目的とする技術と、材料の割裂・汚染損傷の防止を目的とする本件考案とでは、作用・機能の面で共通性がなく、考案の課題も異なるものですから、容易想到性を裏付ける別個の論理付けでもない限り、進歩性は否定されるべきではないと考えます。本件が特許出願であったとしても結論は同じであったと思われます。
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