内容 |
@本例は、商標出願拒絶査定不服審決取消請求事件で審決が維持された事例です。
A対比される商標は、出願商標「ヤフジ/矢富士」(2段書き商標)と先行商標「富士」(著名商標)です。
B審決(拒絶審決)の理由は次の通りです。
“原告の商標は、その構成から見ると、「矢」と「富士」の両観念の結合からなるが、その中心となる観念は、「富士」である。して見れば、原告の商標は、同じ第十八類の商品を取り扱う訴外富士写真フイルム株式会社の著名商標「富士」、「フジ」、「ふじ」、「Fuji」と観念上類似し、これをその指定商品に使用するときは、世人をしてその商品の出所について誤認を生ぜしめるおそれがあるから、商標法第二条第一項第十一号の規定によつて、その登録を拒否しなければならない”(旧商標法)
C原告の主張は次の通りです。
“原告の商標は、前述の構成を有するものであるから、その称呼は、当然「ヤフジ」であり、観念もまた「矢」と「富士」の不可分的な結合からなるものである。従つて、「矢」または「富士」のそれぞれ独立した観念を生じるものではなく、またその表現態様においても、その文字の何れにも軽重の差がないから、これから「富士」の文字を抽出して、観念の中心を「富士」のみにあると断定した審決は、一般の商標の通念に違背したものである。”
D裁判所は、次の理由で両商標が類似であると判断しました。
・原告は、右商標は、「矢」と「富士」とが不可分的に結合されたものであるから、これからは、審決のいうように、「矢」または「富士」のそれぞれ独立した観念を生ずるものではないと主張するが、社会生活上極めてありふれた「矢」と「富士」の二個の観念を構成要素とする「矢富士」の商標が、取引の実情において一体をなし、これを構成要素の各別に分離して観察することが、甚だしく不自然と考えられるほどに、右両者が不可分的に結合しているものであるとの事実は、これを認めるに足りる証拠がない。
・却つて原告会社の商号が有限会社富士産業社である事実に鑑れば、右の商標「矢富士」は、原告の商号の主要部分である「富士」とこれに加えた「矢」の、それぞれ独立した観念を包含し、しかも取引の実際においては、右両者のうち「富士」が特に強く印象せられ、右商標からは、富士又は富士山の観念を生ずるものと解するのが相当である。
・すなわち原告の右商標と、富士写真フイルム株式会社の前記商標とは、その観念を同じくするものであるといわなければならない。
|