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@禁止権の機能の意味
商標権の効力は、専用権と禁止権との2つの部分によって構成されます。
前者では商標権者の独占的な使用を認める独占的効力と他人の使用を排除できる禁止的効力とが認められるのに対して、後者では禁止的効力しか認められまん。
専用権は、商標権の中心部分、すなわち、指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という)についての登録商標の使用に関して認められる効力です。
他方、禁止権は、専用権の回りを取り囲むように、登録商標の類似範囲について認められる効力です。後述のように、商標権は、商品又は役務(以下「商品等」という)の出所混同を防止するための権利であり、当該出所混同の防止のための緩衝地帯(バッファーゾーン)としての機能を有するのが禁止権なのです。
なお、登録商標の類似範囲とは、指定商品等と同一の商品等に使用する登録商標と類似の商標、指定商品等と類似の商品等に使用する登録商標と同一の商標、指定商品等と類似の商品等に使用する登録商標と類似の商標の3態様があります。
A禁止権の機能の働き
(a)禁止権の範囲では、前述の専用的効力がなく他人の権利と抵触しない限りにおいて事実上の使用ができるに過ぎません。仮に商標を使用しようとする事業者が専用権の範囲は狭すぎる、その類似範囲にまで専用的効力を確保したいと思えば、相互の類似範囲に複数の商標の出願を行う必要があります。例えば商品「煙草」に関して主たる商標「△△」に関連して、煙草の強さを表す「△△ライト」、「△△スーパーライト」という商標を出願するという如くです。
(b)登録商標の類似範囲に専用的効力を認めない理由を説明します。
(イ)先願主義は使用する商品等が同一・類似で商標が同一・類似の範囲でしか審査されないために登録商標の類似範囲に専用的効力を認めると、他人に付与される商標権の効力のうち登録商標の類似範囲同士が隣接することになり、その隣接部分で出所混同を生ずる可能性があることです。
(ロ)登録商標の類似範囲同士の間での出所混同を排除するためには、登録商標の類似範囲の外側にまで禁止的効力を認める必要がありますが、これは非現実的です。先願主義の審査において、商標出願の対象である商標に“類似”する商標にさらに“類似”する商標、或いは、指定商品等に“類似”する商品等に“類似”する商品等についても審査範囲を広げなければならなくなり、類似関係の判断が非常に困難になるからです。
(ハ)もともと“商標の類似”や“商品等の類似”は、商標の使用度により左右される商品等の出所混同の範囲を経験則により定型化するために導入された概念です。それらの類似概念は、出所混同の範囲そのものに比べると、変動しにくいものですが、それでも時代や社会情勢により流動する可能性があります。登録商標の類似範囲の類似範囲にまで禁止的効力を認めることは、商標権の及ぶ範囲を不安定とし、他の事業者に不測の不利益を与える可能性があります。
(ニ)そこで専用権の範囲を囲む緩衝地域として禁止権を認めているのです。
B他方との比較
登録商標の類似範囲に専用的効力が認められない理由としては、商標は、自他商品・自他役務の識別のために選ばれたマーク(識別標識)であり、意匠出願や特許出願の対象のような創作物ではないということも挙げられます。
特許出願の対象である発明は技術的思想の創作であり、思想であるが故に文章により一定の広がりを持つものとして保護を求めることができます。
これに対して、意匠は物品の外観として現れる具体的形態であり、それ自体、発明のような広がりを持ちません。それでは意匠の創作を十分に保護することができないので、登録意匠の類似範囲に意匠権の効力(独占的効力+禁止的効力)を及ぼしました。
これに対して商標は、登録商標の類似範囲を創作物として保護することができないため、当該類似範囲には商品等の出所混同の防止の観点から禁止的効力が認められるに留まるのです。
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