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@記述的商標の意義
商品等の質・商品の産地や役務の提供場所などの特性は、事業者が商品等の取引を行う際に商品等の内容を需要者に伝えるために必要となるものです。従って、これを一事業者の商標として登録するべきではありません。従って当該特性を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる記述的商標は商標登録の対象から除外されています(商標法第4条第1項第3号)。例えば商品「清酒」に対して標章「特級」のごときは品質表示として誰からも理解され易いでしょうが、商品の出所を表示するものであるか、品質表示であるかの判断が微妙であるものもあります。その一つの事例として、著名なシンガーの歌手名を商標出願したケースを紹介します。
A記述的商標の事例
[事例の内容]
(a)ここで紹介するのは、平成25年(行ケ)第10158号(審決取消請求事件)であり、「Lady Gaga」事件と呼ばれています。
(b)ご存知の通り、レディ・ガガはアメリカ合衆国の著名な女性歌手であり、彼女には、
(イ)アルバムの売上などから見て世界中で人気を博している
(ロ)グラミー賞などの多数の賞を受賞している
(ハ)日本でもNHK歌合戦に出演したり、東日本大震災の復興事業のために来日した などの事情があります。
(c)前記女性歌手が代表を務める会社が「レコード、インターネットを利用して受信し、及び保存することのできる音楽ファイル、映写フィルム、録画済みビデオディスク及びビデオテープ」を指定商品として、商標「Lady
Gaga」について商標出願を行いましたが、商標法第3条第1項第3号及び第4条第1項第7号違反で拒絶査定され、審判でも当該査定が維持されたため、本件訴訟に至りました(以下後者の理由に関して解説を省略します)。
(d)裁判所は、前記の事情を考慮して、審決を支持しました。
その理由は、“本願商標を、その指定商品のうち「レコード、インターネットを利用して受信し、及び保存することのできる音楽ファイル、録画済みビデオディスク及びビデオテープ」に使用した場合、これに接する取引者・需要者は、当該商品にかかる収録曲を歌唱する者、又は映像に出演して歌唱している者を表示したもの、すなわち、その商品の品質(内容)を表示したものと認識するから、本願商標は、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない。”というのです。
[コメント]
(a)特許庁の審査基準によれば、「映像が記録された『フィルム』については、題名が直ちに特定の内容を表示するものと認められる時は、品質を表示するものとする。『録音済みの磁気テープ』、『録音済みのコンパクトディスク』、『レコード』等についても同様とする。」と定められていますが、音楽グループや歌手名に関しては言及がないため、商標出願人はこの点を審判の段階で争っていました。
(b)レコードや音楽ファイルを購入する需要者は、特定の音楽グループや歌手を気に入って商品を買うのですから、誰の歌であるか、誰が演奏した音楽であるかは、商品を購入するときに一番重要な要素です。その重要度は、例えばワインという商品を購入するときの産地表示の重要度と同等かそれ以上でしょう。そうであるとすれば、“収録曲を歌唱する者”を商品の特性と認めた判決は妥当なものと考えられます。
(c)今後は、歌手名などを商標として使用するときには、その歌手が有名になる前に商標出願することが有効になると考えられます。
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