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@使用による自他商品等の識別力の取得の意義
指定商品・指定役務の普通名称、慣用商標、いわゆる記述的商標に関しては、たとえ商標出願をしても商標法第3条第1項各号違反で拒絶されます。しかしながら、長年特定の商品等に使用をして需要者が“誰かの商品等であるを示すためのマーク”と認識するに至ったとき(識別力を獲得したとき)には、その使用された商品等と同一の商品について同一の商標を登録することが認められています(商標法第3条第2項)。
“同一の商標”と言っても物理的に完全に同一ではなく、ある程度の社会通念上で同一と認められる範囲であれば足りると解釈されています。ここでは商標法第3条第2項該当性のうち商標の同一性が論点となった事例を紹介します。
A使用による自他商品等の識別力の取得の事例
[事例の内容]
(a)ここで紹介するのは、平成24年(行ケ)第10285号(審決取消請求事件)であり、世間では「あずきバー」事件と呼ばれています。
(b)商標出願人は、「あずきを加味してなる菓子」(第30類)に関して商標「あずきバー」(標準文字)を出願しました。
→標準文字とは
(c)審査官が前記商標は“商品の品質を普通に表示する標章のみからなる商標”であると該当して商標法第3条第1項第3号違反で商標出願を拒絶し、審判でも拒絶査定が支持されたため、本件訴訟に至りました。
(d)商標出願人は、上記指定商品に関して、次の構成を有する商標を使用していました。 ・あずきバーを縦書きにしている。
・“あずき”の部分が“バー”の部分に比べて非常に大きく描かれている。 ・丸文字体で描かれてい流。
(e)裁判所は、“原告は、本件商品の販売以来、本件商品の包装に原告の会社名とともに、丸文字体の一種といえる書体により「あずき」の文字を縦書きし、その「き」の下に「あ」「ず」「き」の各文字の約4分の1程度の大きさで丸文字の一種といえる書体による「バー」の文字を縦書きした構成からなるもの(以下「本件ロゴ書体」という)、これを横ばきにしたもの又はこれと社会通念上同一と見られるものを使用している。”」と認定しました。
(f)裁判所は、原告の本件ロゴ書体の商標の使用に関して次のように認定しています。
・昭和47年から現在に至るまで販売を継続しており、販売数量も平成17年度に1億3700万本…、平成22年度に2億5800万本である。
・平成元年から審決に至るまで一時中断を挟みながらテレビコマーシャルを放映しており、放映料は平成20年以降、毎年1億2000万円を超える。
・新聞その他の媒体を通じて全国的に広告を実施している。
(g)裁判所は、以上の事実に基づき「本願商標は、本件商品の販売開始依頼本件審決の時点に至るまで原告の製造・販売に係る本件商標を意味するものとして取引者、需要者の間で用いられる取引書類等で全国的に使用されてきたものと認められる。」と判断しました。
[コメント]この事件では裁判所は、本件ロゴ書体と本願商標とが同一であると明確に判断していません。これまでにも横書きの商標と縦書きにした商標との間で同一性を認めた事例はあります(→使用による識別力の取得のケーススタディ2)。
しかしながら、本件の場合、縦書き及び横書きの違い、文字の大きさの違いなど複数の要素が見受けられ、外見上の相違はかなり大きいと言えます。
標準文字としての「あずきバー」と、本件書体ロゴとは、称呼に関しては同じですから、前述の使用実績及び使用態様(特にテレビコマーシャル)を考慮すれば、商標出願人の業務上の信用が前者に蓄積していたと考えるのが自然であり、そうなると、使用による識別力を認めた判決は妥当と思われます。
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