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@商号商標の類似の意義
商号商標は、法人格などを表す用語含む構成を有します。こうした用語としては、日本語では“株式会社”が、英語では“Corporation”や“Incorporated”があります。こうした商標の類否判断では、当該用語を除く構成部分から生ずる称呼を考慮に入れる傾向があります。そうした用語は、需要者に与える印象が薄く、取引の場面で識別機能の発揮に資する割合が低いと考えられるからです。
A商号商標の類似の事例(“=”は類似の意味、“×”は非類似の意味) 事例1
[本願商標・引用商標]VR・1,Inc.+図形=VR−1/スペースミッション
[事件の表示]不服2001−12198号(商標出願拒絶審決不服)
[適用条文]
[本願指定商品]第9類 電気通信機械器具その他 類似と判断される理由:
商標出願人(株式会社ジャコレ・インク)が出願した本願商標は、逆三角形状の幾何学的な図形の下に“VR・1,Inc.”という文字を描いてなるものである。
本願商標の図形部分及び文字部分を常に一体不可分のものとして把握しなければならない別段の事情は見出し得ず、指定商品との関係でそれぞれ独立して、自他商品識別標識としての機能を果たし得るものと判断される。
さらに“VR・1,Inc.”のうちの“Inc.”文字部分は法人組織の、有限責任のなどの意味を有する英語Incorporatedの略称であり、会社名の後に付されるものと広く知られているから、本願商標の“VR・1”が会社名であり、これから生ずる“ブイアアルワン”の称呼も生ずるものと考えるのが相当である。
引用商標は、上段の“VR−1”が下段の“スペースミッション”より大きく描かれているから、“ブイアアルワンスペースミッション”の他に“ブイアアルワン”という名称が生ずるものと考えるのが相当である。
してみると本願商標と引用商標とは、外観および観念の相違を考慮しても、“ブイアアルワン”の称呼を共通する相紛らわしい商標であり、類似関係にある。
事例2 [本願商標・引用商標]INCS INC.×Inx
[事件の表示]不服2008−4435号(商標出願拒絶審決不服)
[適用条文]
[本願指定商品]9類「電子計算機用プログラム、電子応用機械器具及びその部品」 非類似と判断される理由:
本願商標は、同じ書体・同じ大きさで外観上まとまりよく一体に表されており、これにより生ずる“インクスインク”の称呼も淀みなく一連に称呼し得るものであることから、構成全体を以て一連不可分のものと認めるのが相当である。
本願商標の構成中の“Inc.”は“Incorporated”の略語と認められるのが相当であるから、本願商標は、商標出願人である請求人(株式会社インクス)の商号の英語表示と見ることが相当であるから、「INCS
INC.」の商標が外観上まとまりよく一体に構成されている本願商標においては、その構成のうちで“INCS”の文字部分を取り出して、“インクス”の称呼を生ずると考える格段の理由はないものと考えられる。
[コメント]
一見したところ、同程度の語数で”Inc.”を含む商標であるのに、なぜ一番目の事例では”Inc.”を除く構成部分からも称呼が生ずると判断し、二番目の判断では商標の構成全体からのみ称呼が生ずるという判断になるのか戸惑うところです。
二番目の事件は株式会社インクスが「INCS
INC.」が商標出願をしたのですから、商号商標として権利を求めたことは明白であり、“インクスインク”と語呂が良くひとまとまりになっていることを考えると、本願商標“インクスインク”から“インク”を取り除いた“インクス”では全く異なる印象を与えることを考え合わせると、“インクス”という称呼を抽出して他の商標の類似性を比較するのは妥当でないと考えます。
これに対して、一番目の事例では、
・商標出願人の名称は“株式会社ジャコレ・インク”であって““VR・1,Inc.”とは一致しないこと
・“ブイアアルワンインク”から“インク”を除いて“ブイアアルワン”という称呼を抽出しても元も商標とはさほど印象の相違はない
ことを考えると、2番目の事件とは事例を異にするものと理解されます。
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