体系 |
禁反言 |
用語 |
禁反言による信義則のケーススタディ1(商標の場合)/I-Lux事件 |
意味 |
禁反言の原則とは、一般に甲が乙に対して何らかの意思表示を行い、乙がその意思表示に応じて行動をとった場合に、後になって甲が前記意思表示と矛盾する行動をとることができないという原則を言います。
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内容 |
@禁反言の原則の意義
(a)禁反言の原則はフェアプレイの精神の表れであり、例えば当事者が自由意思で行った自分の行為に反してはならないとか、捺印した証書に反する主張をしてはならないということを含みます。これらは主に取引の安全を保護するために必要です。
しかしながら、取引の場面以外でも禁反言の原則は適用され、商標出願の手続では、商標出願人が審査において主張したことと矛盾したことを権利行使の場面でしてはならないという形で現れます。そうした事例を紹介します。
(b)禁反言の原則は、いわゆる信義則の概念に含まれるものです。
A禁反言の原則の事例の内容
事件の表示:平成21年(行ケ)第10102号
事件の種類:審決取消請求訴訟(棄却)
本願商標:楕円形の上に(I-Lux)の表記を重ねた図形商標
出願番号:商願2007−108683(商標公開2007−108683)
問題の意思表示が行われた場面:商標出願の審査で先願商標の類否を争っている場面
意思表示の内容:本願商標は“アイルックス”などの称呼を生ずる。
意思表示に反する主張:“I”の部分はアルファベットのアイではないから、本願商標から“アイルックス”などの称呼を生ずると判断した原審決は誤りである。
事件の経緯:本願商標の構成中の(I-Lux)は、“I”の部分が“Lux”よりも2〜3倍も長く、文字商標か否かが争われていた。
本件商標出願の拒絶査定不服審判の審決理由は「Eye
Lux」という先願登録商標と類似する商標であり、同一・類似商品に使用されるから商標第4条第1項第11号(先願先登録の商標との抵触禁止)に該当するというものです。
その理由は、本願商標の図形部分は黄色の楕円形という以外に特定の概念を生ずるものではなく、文字を引きたてる背景的なものに過ぎないから、一見して、図形部分と文字部分とを分けて見て取れる、“-”の部分はハイフォンであり、“I”はIと認識されるから、“アイルックス”などの証拠を生じ、引用発明の称呼と相紛らわしいから、類似の商標であるというものです。
裁判所の判断:
(a)まず原告は、本件商標出願に係る一例の手続において本願商標から「アイラックス」・「アイルックス」・「アイルクス」の称呼を生ずることを自ら主張していたのであり、これと異なる主張を自らすることは信義則上許されないというべきである。
(b)本願商標は「I−Lux」という文字を図案的に表記したものであることは容易に認識できる。
このことは、本願商標が付された原告の商品が「アイラックス・フレッシュカラー」などの名称で販売されていることからも裏付けられる。
(c)従って審決の判断に誤りはない。
[コメント]
この事例では、“I”と“Lux”との間に
“-”を入れていたという段階で“I”がアルファベットのIではないと主張には無理があったと考えます。“-”は文字らしきものの中間にあるという配置からハイフォン以外には見えないからです。信義則違反という事情がなくても裁判所は同様の判断を出したものと推測します。
信義則を考慮しなければ逆の判断になっていたかもしれないという事例として次のケースを挙げます。
→禁反言による信義則のケーススタディ2(商標の場合)/KII事件
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留意点 |
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